CABIN 2012

『第5回 日本海遠征』
〜 ケビン集合2012 〜
突行日 2012年 9月 22日




■ 1日目 −海・突行−


全て順調。何もかも順調。何のストレスも不安要素もない。
まさに一片の曇も無い晴れ渡る青空のような気持ちで、この日の朝を迎えた。

久しぶりに顔を合わせた3人 ケビンノート、授与式

早朝5時。広島市内の自宅まで迎えに来てくれたサイモンさん&ヌルハチ君と共に、ケビン集合の開催地である日本海は島根県某所へと車を走らせる。久しぶりに顔を合わせた三人だったが、近況報告もほどほどに、話題の中心はこれから始まるケビン集合、そして第4回KING OF CABINの展望へと移っていった。初めての6人制KOCというだけでレベルが上がるのに、これまで“誰でも出来る簡単レシピ”という謳い文句の手抜き料理を出しては失笑を買っていた悪童・ヌルハチが、今年はついに本気モードで戦いを挑んでくるという。(ま、それも本当かどうか定かではないが。)さらには初出場となる実力未知数のホリエモン君が、料理屋で一年間の武者修行を積んだという噂。昨年3位に甘んじたらくだ君の逆襲と、そのらくだ君に“度肝を抜かれた”と言わせたジュゴンさんの今回のKOCに掛ける意気込み。自分の事は一切話さないくせに、他人の事は執拗なまでに勘繰る歪な会話のキャッチボール。そんな感じで道中の3時間半は常に誰かが喋り続けていたため、車内での時間は本当にあっという間に感じられた。

待ちぼうけをくらい、怒る3人! 6人のケビナーが無事に揃いました!

8時25分。私の記憶が正しければサイモンさんとヌルハチ君のせいで予定より15分ほど遅刻し、待ち合わせ場所に集合する。すでに到着済みの3人はかなりご立腹の様子であったが、広島から来たケビナーの顔を見ると思わず頬が緩み笑顔がこぼれてしまう。やっぱりみんな、良いヤツらだ。

物色し合うケビナー達・・・。 ホリちゃんの車の中にトマト発見!!

挨拶も早々に海へ・・・というわけにもいかず、やはりお互いの手の内を探りあっては大口を叩くのは我々の悲しい性なのだろうか。他人の手の内を探るべく車内を覗き見したり、聞き込み調査を行ったり。今回初めてのKOC参加となるホリエモン君にいたっては料理の決め手となるトマトが車内から見付かってしまい、先輩ケビナーからそれはそれは酷い尋問を受けている様子。

結局着替えを済ませて海へ入るまでに、軽く一時間以上もかかってしまった。


■1本目 ポイントHN

空は快晴、海はベタ凪。おまけに周囲に釣り人は皆無。

海は若干白濁しているものの、透明度は10m程度は確保されている。
秋の日本海、さらには実績の高いポイント。さすがに魚影も濃い。

しかしそんな好条件に反し、オレの今回のターゲットフィッシュは昨年同様、泣く子も黙る残念魚・タカノハダイなのである。昨年のKOCではあまりの磯臭さに全てのケビナーから反感を買ってしまったが、一年の時を経て、あの忌まわしき臭みを消し去る(はずの)レシピを思慮熟慮の末に考案。昨年は臭みを甘みで中和させようとして失敗したが、今回は臭みを臭みで相殺させるというかなり荒療治な料理法をチョイス。それでいて食感とほのかな魚味を残す(はず)。早いとこ手頃なタカッパをサクッと突き上げて、秋本番の日本海を満喫しようぜ!・・・という軽い気持ちで、エントリーを開始した。

ところが・・・だ。この日に限ってタカノハダイの姿が全く見当たらない。普段は邪魔なくらい目に付くはずの残念魚が、本当に一匹も居ないのである。頃合の良い浅い根を見付けては足を止め、その岩肌を虱潰しに見て回ったが、黄色と白のストライプは一向に姿を現さず。少し深場へと捜索エリアを広げてみるも、待てど暮らせど寄ってくるのは微妙なサイズのイシダイやグレばかり。

何の収穫も無いまま、開始から1時間以上が経過。このままでは埒が明かないと判断し、タカノハダイは別ポイントへと移動する2本目に狙うことにして、これから残った時間は普段どおりの魚突きを楽しもうかと・・・。

でもやはり、そう簡単には頭から離れないのがKOCの呪縛というもの。
今回のオレの料理はどんな魚種でも白身魚であればそこそこ美味い料理にはなるが、臭いB級魚でエントリーし、プラス査定を稼いでこそナンボのレシピである。過去の経験からも、ただ美味いだけでは勝ち目が無いことは明白であり、無論、そんな料理を出すつもりは毛頭無い。うろつきまわる微妙なサイズのイシダイやキジハタにはなかなか食指が動かず、寄せてはスルーを繰り返すうちに、自分は一体何を狙っているのか本当に解らなくなってきてしまった。



今オレが欲しいのは何だ?

KOCのエントリーフィッシュか?獲るだけで満足するような大物か?


自問自答を繰り返しながら空潜りを続けるも、無駄に時間だけが消化されていった。

結局ここで放ったヤスは一度だけ。水深10m少々の沈み岩に群がるイシダイの群れの中に、60cmクラスのイシダイを1匹だけ確認する。とりあえず最低限の白身魚をキープしておきたいなと、寄せるだけ寄せた後に横っ面目掛けてヤスを打ち込んだが、ロックオンしていたはずのヤス先は何故かニョロっと力無く掌から放れ、瞬時に身を翻したイシダイのシルエットを捉えることはできず。

何をやっても上手くいかない不穏な展開。

中途半端な考えを捨てるべく、浅場へと戻りタカッパ探しを続けるも、残り1時間の間で見れた個体は30cm弱の微妙なサイズを1匹のみ。これ一匹では食材としては確実に肉量不足であるうえに、殺気立ったオレに気付くや否や、一目散に視界の外へと消え去ったタカッパ。すっとぼけた顔した臭ぇ縞々野郎も、獲ろうと思えばこんなに難しい魚だったのか・・・。と、絶望感に打ちひしがれながら、己の無力さを痛感。

そのまま2時間30分のタイムリミットを迎え、まさかのノーフィッシュでのエキジットとなった。


1本目の総突果
さすがにこの海況、この魚影、みんな確実にエントリーフィッシュを捕獲している。

ヌルハチ君は小さいながらもクエをゲット。初出場となるホリエモン君も、良型のイシダイをキープ。ジュゴンさん、らくだ君は、まぁ流石といったところか。


・・・で、あ、あれ?


同じ広島チームのサイモンさんは・・・、ま、まさかの手ぶらですか??

昨年、一昨年と2年続けてエントリーフィッシュの調達に苦労したサイモンさん。「魚はどうしたんですか?」という問いかけに対し、「鮮度が落ちるから2本目で獲るんだって!!」という強気な発言が、澄み渡る青空に虚しく響き渡っていた。


高知大OBはヒラマサ&クエ!


チーム島根はイシダイ&ヒラマサ&コショウダイ


チーム広島はイシ・・・ 秋晴れの空に、虚しさ一点。




■2本目 ポイント・沖テトラ

ジュゴンさんはケビン集合初の釣りに挑戦!

1本目を終え、エントリーフィッシュが未調達のオレとサイモンさん。1本目の突果(ヒラマサ)ではエントリーしないというらくだ君。意中の魚を手にし、すでに一仕事終えた感のあるヌルハチ君とホリエモン君。そして2本目はケビン集合初となる、エギングでイカを狙うジュゴンさん。(※KOCエントリー魚・・・当日の海での拾得物。漁法は問わない。)

各自様々な思いを胸に、2本目の突行(釣行)を開始する。

一先ず湾内のエントリーポイントから、沖に張り出すテトラポットに向かいフィンを蹴った。狙うはもちろん、タカノハダイ。ここで居なけりゃ、全てが終わる。ここで獲らなきゃ、全てが終わる。こんな良い海なのに。こんな良い時期なのに。こんな良い海況なのに。なんでオレはタカッパごときを相手にここまで悲愴感の漂う魚突きをしなくちゃいけないんだ!・・・と、少し自嘲気味なテンションで、沖のテトラへと泳ぎ着いた。

まずは軽めのワンダイブ。1本目に比べて若干透明度は落ちるも、やはり魚影は濃い。スズメダイやコッパグレ、小アジの群れは随所に湧いている。時折40cmまでのイシダイがフラフラ〜っと視界を横切り、遠めには50〜60cm程度の単体のヒラマサも回っている様子。ひとまず水深12〜13m程度のラインまで潜り、何か良い案が浮かばないかなと沈み岩に腰を掛けていると、突然背後から「バシュッッッッ!!!」というゴムの鋭い発射音が鳴り響いた。すぐに後ろを振り向くと、サイモンさんが手銛を縦にし、力強いフィンキックで海面へと向かっているではないか。手銛の先端から伸びたラインの先には・・・良型のイシダイが力無い抵抗を見せている。


まずい。非常にまずい。これでボウズはオレだけになってしまった。

まだ2本目の開始から間もないが、何故だか一気に焦りが出てしまった。

そしてここからは時間の経過と共に、焦燥感だけが確実に増していく。

そう、タカッパが・・・、あのタカノハダイが・・・、居ないのである。

何処へ行っても。

どれだけ潜っても。


開始から30分が経過し、未だ何の成果もなし。でも大丈夫、まだ2時間近くあるのだから。そう自分に言い聞かせるも、やはりそろそろ最低限の白身魚は獲っておくべきだろうと判断し、イシダイのレギュレーションを40cmまで下げ、適当な水深に潜って目ぼしい魚を待つことに。


気が乗らない魚突き。獲りたくもないサイズの魚を獲ることの悔しさ。虚しさ。

獲りたくも無い魚?

つっても、獲りたい魚がタカッパだからね。

こんな魚突き、はっきり言って面白くも何ともない。


そしてそんな魚突きに、しばらくの間没頭することになる。捕獲基準を下げ、どんな魚でも捕獲する気になったはいいが、現れる魚は30cm程度のイシダイと、それに満たないキジハタ、グレ、コブダイ・・・。虐待寸前サイズのクエを一度射程に捉えたが、瞬間的に穴へ逃げ込まれてそれっきり。出てくる気配すら感じられず。

もう何をやっても上手くいかないなと嘆きながら海面を漂っていると、テトラの際で迷彩柄のウェットスーツに身を包んだスピアマンが何か不穏な行動をとっているのを目にする。1本目にヒラマサを獲ったものの、ヒラマサでのエントリーは考えていないというらくだ君だった。しばらく黙って水面かららくだ君の様子を見ていると、水深5m程度のテトラの際に潜ってゴムを引き、スズメダイの群れに向かって手銛を構えているではないか。「まさか!?」と思うや否や、勢い良く手銛を撃ち放つらくだ君。その瞬間スズメダイの群れはまるで打ち上げ花火かの如く四方八方へと散らばったが、またすぐに一塊の大きな群れとなり、何事も無かったかのように水中を漂い始める。木の葉のような小魚を捉え損ねたらくだ君は、素早く手銛をリセットし、再びスズメダイの群れに向かって手銛を撃ち放つ。そして再びスズメダイは花火のように四方へと散らばった。「らくちゃん、今年のエントリーフィッシュはスズメダイなんや(笑)」と、海面で思わずニヤケてしまったが、大型のクエや青物を難なく突き上げるほどのスキルを持つらくだ君が、KOCのためとはいえスズメダイを相手に本気モードで乱れ撃ちを炸裂させているのを目の当たりにし、未だ何の結果も出せていないうえに方向性すら定まらないオレは、さらに追い込まれた気分になってしまった。


「オ、オレは一体・・・、何をやってるんだ。。。」


しかもこの直後に水深4〜5mの浅場で50cmクラスのスズキ(それもテトラの陰でホバリング状態のテッパンスズキ)を真上から2度も撃ち損ね、時間的にも精神的にも相当追い詰められてしまう。


残り時間は1時間少々。

まだ時間はある。まだ1時間もある。


しかしそれがすでに強がりであることは、自分でも重々承知の事実となっている。


もはや完全に迷走状態。少しギャンブルではあったが、次第に魚影が薄くなっていく狭いエリアのテトラ地帯に見切りを付け、湾を横切り、潮通しの緩やかな磯場へと移動することにした。こんな潮溜まりのような微妙な磯でも、タカッパくらいなら居るのでは・・・と、祈るような気持ちでフィンを蹴ったが、突き付けられた現実はそう甘いものでもなく、タカッパはおろか掌サイズ以上の魚には一匹も出会えず。

残り30分。エキジットに費やす時間を計算すれば、時間はさらに短くなる。

1本目、2本目と共に2時間以上みっちり泳ぎ続け、体力も限界に近付いて来た。昔なら2時間半×2本程度の突行でヘコたれることはまず無かったが、前夜の睡眠不足と慣れないフロートの使用に加え、精神的なストレス、あとは単純に突行回数の減少から来る持久力の衰えなのだろうか。

体力の低下はそのまま気力の低下を齎す。

もうダメだ。潜りたくない。もう息を止めたくない。ボウズでも良い。だからこのままエキジットしようか。でも、KOCにエントリー出来ないのは情けない。情けないし、場をシラけさせてしまっては皆に申し訳ない。こんな海で魚が獲れないなんて、誰が信じてくれるもんか。だからオレは土下座をしながら懇願するだろう。「泣きの三本目をお願いします」と。でも、3本目なんて潜りたくないんだ。潜りたくないのに、土下座までして潜らせてもらわなくちゃいけないんだ。


オレはなんて無様なんだ・・・。


・・・。


そうだ、良いことを思い付いた。



耳の調子が悪いことにしよう。


そうすれば、、、


・・・。


・・・・・・


はぁ〜。。。


オレってヤツは・・・。


突行可能時間は残り15分程度。ここで最後にもう一度、テトラ地帯に戻ってみた。
ここで2〜3回潜り、これでダメなら一旦上がろうかと。それから先のことは、みんなの顔色を伺って・・・なるようになるしかない。

力無いジャックナイフの後、水深13〜14mの大きな沈み岩の上に着底し、周囲の様子を伺ってみる。ここで奇跡の青物の大群登場!!岩下には良型のタカッパの群れが!!・・・なんて、これっぽちも願っちゃいない。現実的に、獲れる魚は居ないか?と。

着底から数秒後、沈み岩の下方(ボトム付近)に群れるメジナの中に、イシダイが3〜4匹入っているのを確認する。サイズ的にも悪くない。ちなみにこの時はタカッパがどうとか、白身魚がどうとか、全く考えていなかった。とにかく「もうこれ以上潜りたくないから、何としてでもあのイシダイを獲りたい!」という一心で、魚群の動きを目で追っていた。イシダイの群れている水深は、ここからさらに−5mほど下ったライン。そこまで下りて対等な駆け引きをしても良かったが、下手なアプローチ(刺激)をしてこのチャンスを逃せば本当に“全てが終わってしまう”ので、岩の上からヤスを構え、ほんの少しだけ左指で岩肌を擦った後はもう微動だにせず、ひたすらイシダイが寄り上がってくるのを待ち続けた。

時折メジナの不要な動きに翻弄されながらも、スーッと海底方向から身を寄せてくるイシダイ達。確実に仕留めなければいけないという考えもあったが、出来れば群れの中の最大サイズを狙いたいという気持ち(癖)はやはり抑えきれず、1匹目のイシダイ(40cmクラス)をスルーして、次に射程に入るであろう最大サイズの個体に照準を合わせる。



あと2m・・・。


あと1m・・・。


50cm・・・。


そして射程圏内へ。


若干遠めではあったが、イシダイが最初に横を向いたタイミングでヤスを撃ち込んだ。頭部を狙えば弾かれるかもしれない微妙な距離だったため、身体のど真ん中を目掛けてフルショット。勢い良く放たれたヤス先はイシダイの左側腹部の後ろ寄りを捉え、撃たれたイシダイは海底方向へと激しい突っ込みをみせる。しかしラインさえ切れなければ特にスリルも無い展開。穴に入られないように手銛を操作し、浮上しながら確実に魚を手繰り寄せる。

刺さり所は酷いけど・・・!

手にしたイシダイは50cm後半のまずまずの個体だった。


様々な葛藤の末、最後の最後に少しだけ出来た魚突き。

喜び?快感?満足?

いやいや。少しだけ感じたのは“KOCの呪縛”からの開放感。

お目当てのタカノハダイは獲れなかったが、場を乱さない最低限の仕事はできたことに安堵感を漂わせ、制限時間ギリギリで疲労困憊のエキジットとなった。


KOCの存在が大きくなればなるほど、魚突き本来の楽しさは確実に薄れていく。しかし、それもすべてコンテスト(KOC)のうちだと割り切れば、それは魚が獲れない己の未熟さの言い訳にしか過ぎないのだろう。



『魚突きと書いて、我慢と読む。誰が悪いのではない、自分が選んだ道なのだから。』



世界の広さを知る、我らが大将の言葉である。
オレの魚突き人生にとって通算100匹目となるメモリアルイシダイは、いろいろな意味でとても印象深い1匹になった。

結局ここではヌルハチ君、ホリエモン君といったエントリーフィッシュのキープ組はほとんど潜らなかったらしく、ジュゴンさんは予定通りエギングでアオリイカを1ハイ追加。サイモンさんは始めに獲ったイシダイで納銛。らくだ君はあの後も乱れ撃ちを続け、スズメダイ&オヤビッチャを捕獲した様子。これで第4回KING OF CABINも、無事全員でエントリーできる運びとなった。

何とか白身魚を手にしたチーム広島! 必死で魚を大きく見せようとするらくだ氏


必死でイカを大きく見せようとするジュゴン氏 2本目の総突果



さて、ここからの様子は例年通り、画像中心でレポりたいと思います。
想像力をフル稼働して、聖地の夜を堪能してください。

また、ケビナー諸君はパソコンの前にアーモンドとプレミアムモルツ(金麦でも可。ホリちゃんはファンタね。)を用意して、あの夜の光景を激しくフラッシュバックさせましょう。今回は無駄にボリュームが多いので、350mlのビールなら3本はいける構成となっております。






嗚呼、タカッパよ

オレはお前達一族を一生憎むぞ。