突行記 ’08

『第13回 日本海遠征』
〜 キジハタフェスティバル 〜
突行日 2008年 9月 10日

 ベタ凪の日本海に、サイモンさんと二人でレッツゴー。

 突行レポートが宿題のように貯まりそうな雰囲気なので、今回はサラっと流します。


□ 1本目・ポイント・OH

突果

キジハタ 4匹 52.5cm〜45.0cm
イシダイ 1匹 55.0cm

 9月初旬の海はまだ秋とは言い切れず、水温的にもまだ夏らしさの残る微妙な感じ。

 透明度が良かったため(13m前後)、魚突きが快適に出来たと共に、魚影も比較的濃く感じられ、素潜り自体が非常に楽しい1本目の海だった。

 まずはエントリーからわずか10分。沖合いに位置する瀬周りにて、身体を水深に慣らしながら−10m付近を平行移動していると、7〜8m前方の根の割れ目に入り込んでいく1匹のキジハタを発見する。普段の透明度ならおそらく気付かない間合いでの発見だったため、何となく少し得した気分にもなった。とりあえず一旦浮上して息を整え、少し離れたところから再潜行。死角を利用して慎重に近寄ると、キジハタは割れ目の入り口付近に生えているワカメの陰に隠れ、暇そうにホバっていた。

「楽勝モードだな。」

 静かにヤスをキジハタの側頭部へと向けると、キジハタは徐にこちらに顔を向けてきたため、しばらくの間、根競べ。

 …。

 何秒経っただろうか?

 全く横を向く素振りが無かったため、腕を少しずつ横にスライドさせ、ヤスの角度を変えて強引に斜め横から撃ち込むことに。

 ヤスはキジハタの左側頭部から反対側の頚部へと貫通し、取り込みも難無く終了。

 キジハタ 47.5cm
 幸先の良いスタートが切れました。


 1匹目のキジハタを突いた瀬周りの探索を終えると、いつもは岬の先端へ向かって泳ぐのだが、この日は海底から隆起した岩や根などが薄っすらと確認できるほど透明度が良かったため、“新たなる沈み根”を求め、沖へ沖へと泳ぎ出ることに。
 今まで何十回と通い詰めているポイントだったため、そんなに簡単に新しい発見は無いだろうと思っていたが・・・見付けました。探し始めてわずか15分後くらいかな。もしかしてこのポイントで最強じゃないのか!?…という程の、強烈な沈み根を!

 半径10m程の大きさの根で、トップの水深は3mくらい。まずは水深7mのラインに一つ目の棚があり、そこから急傾斜が始まり水深15m付近にも小さな棚があった。さらにそこからはストンと落ちて、ボトムは25m少々。ボトムまでの垂直な岩肌の壁面には斜めに大きく走る深い亀裂もあり、潜ってみて直ぐに「ここのポテンシャルは高い!!」と確信できたほど、本当に雰囲気の良い根だった。

 まずは15mの棚まで潜り、しばらく周囲の様子を伺いながら、全体としての魚影などを把握してみる。

 とにかく小魚の数が多いのが印象的。食べられる小魚から、そうでない名も無き小魚まで。イシダイはあまり良いサイズは回ってこなかったが、キジハタは40cm〜45cmまでを3匹ほど確認することができた。青物は60cm級のヒラマサの群れ(50匹程)が一度だけ回ってきたものの、タイミングが悪くヤスを撃つまでには到らず。クエやマダイといった大物には最後まで出会えなかったが、潜行中は常に何かを期待させてくれる沈み根だった。

 ちなみにここで獲れたキジハタは、45.0cmの個体を1匹だけ。

 垂直の壁面にポッカリと開いた大きな亀裂の入り口付近で暢気にホバリングしていたキジハタと、しばらく向き合い、根競べ。

 ヤス先はキジハタの顔面手前20cmほどでスタンバイ。

 キジハタが横を向くのが先か、オレの息止めに限界が来るのが先か…。

 水深は20mジャスト。

「…。」

「早く横を向けよ…。」

「ん〜。」

 普段ならかなりの確立で勝利を収めれるこの駆け引きだが、さすがにこの水深ではオレの方が少々分が悪かった様子。

「やべぇ…負けそう…」

 素直に一旦浮上しても良かったが、開始早々に良型のキジハタを1匹キープできている余裕から、これまで何十匹とキジハタと対戦した中で一度も実行したこともない奇策(奇行?)を試してみることにした。

 その名も…
『ヤス先でキジハタの横っ面をビンタし、強制的に横を向かせるの技』

 冗談半分、本気半分。

 相変わらずこちらをガン見し続けるキジハタに対し、チョッキの先端でキジハタの左頬の前辺りを「ペシッ!」と水平に叩くと、コツッ!と小さな音がオレの耳に伝わると同時に、キジハタは一瞬右を向きかける!!「さすがに逃げるかな!?」と思ったら、それは大きな間違いだった。頬を小突かれたキジハタは、「お前、何すんねん!!」みたいな勢いで、直ぐに正面を向き返し、再びこちらを睨みつけて来た。

 睨めっこ、リターンズ。

 もちろんオレの息止めはもう限界です。。。

 一旦上がって再潜行。2度目もほとんど同じ位置に居たが、今度は岩肌の割れ目の中を低速で平行移動していたため、ヤスを向けるなりあっさりと側頭部を一突き!ヒット直後に素早くシャフトを掴み、割れ目の奥へ逃げ込もうとするキジハタの動きを封じると、そのままの流れで強引に割れ目の中から引き出した。

 キジハタ 45.0cm
 なかなか楽しませてくれました。

 結局この根での突果は、この時に獲れたキジハタ1匹のみ。しかしこの根を攻略し終えた時、ダイコンの最大水深を示す数値は5年間の素潜り人生で最も深い25.5mを表示していた。これを見た時はちょっとテンション上がったね。初めて20m潜った時と同じくらいの達成感があった。将来的に何m潜りたい!という目標は一切持っていないが、やはり深く潜れればそれだけ魚突きの幅が広がるということ。最大深度は魚突きのスキルに少なからず直結するカテゴリーであるため、自分の成長度合いが全く判らなくなってしまった今、この数字に表れる記録更新(スキルアップ)は素直に嬉しかった。


 さて、続いてのキジハタは一つの岩下で立て続けにゲット。

残念ながら動画撮影には失敗!
 おっと、、、そう言えばその前に通称ヒゲダイ岩でイシダイ55cmを水中動画撮影しながら、捕獲したんだった。肝心の動画の方はヤスを撃つ瞬間にカメラのレンズにワカメが覆い被さったりして、あまり良い出来栄えでは無かったのが残念…。しかし、右手にヤス、左手にカメラ、右肘でゴリ寄せしながら、イシダイが射程に入るのを待つってのはホント難しいよね。ゴムは潜行前から常に引きっぱなしだしさ。何より耳抜きが上手く出来無いのが非常に辛い。

 ま、その話は置いておいて、3匹目のキジハタの話。とは言え、別にこの後のキジハタ捕獲劇も改まって書くほどの内容では無いんだけど…。


 開始から1時間30分くらい経った頃、通り掛かったとある沈み根にて、イシダイの楽園を確認する。

 根と根の間に挟まれたスペースの中に、60cm後半のイシダイを筆頭に40cmクラスが数十匹。グレも同じくらいのサイズが同じ様に混ざっており、とにかく灰色の魚達が所狭しと群がって居た。イシダイは先ほど早まって55cmクラスをキープしてしまったため、狙うのであれば標的はもちろん最大サイズのクチグロのみとなる。再び水中カメラをセットし、ヤスゴムを握り締めて両手が塞がった状態での魚突き。警戒心を煽らないように注意しながら何度か潜行を続けた結果、60cmオーバーのクチグロは何度か射程に捕らえたものの、あまりに濃い魚影を前にはたしてそれが“最大サイズの獲るべき個体なのか”どうかを瞬時に判断できず、ヤスが撃てないまま時間だけが過ぎていく。優柔不断というわけではないのだが…。次第にイシダイの魚影は薄くなり、いつしかボス格のクチグロはその姿を現さなくなってしまった。

「さてと。時間も時間だし、諦めて次の根に行こうかな〜。」

…と、潔く諦めて次の根に移動しようとした時、根の底の方で大型のクチグロが数匹、ボトム付近に散在する岩下のスペースへと入って行くのを、薄っすらと確認できた。

「一応、覗いてみるか…」

 未練は全く無かったが、素通りするのも変だなと思い、気軽に岩下を覗いてみることに。意外にも岩下はかなり広く、タタミ2畳分のスペースに高さは50cmほどの扁平な空間が広がっていた。岩下の奥には左右にそれぞれ小さな出口が2つありそうで、そこから薄っすらと光が漏れている。ちなみに中には60cm弱のイシダイが数匹と、無駄に大きなタカノハダイが1匹、それから40cmクラスのメジナが数匹蠢いていた。

「ん〜、微妙だねぇ…。」

 そう思って浮上しようとした時、岩下の左奥の暗がりの中で、僅かに動く魚のシルエットを確認する。

「キジハタ率80%。サイズまでは解らないが、おそらく良型だろう」

 すでに息止めが限界に近かったため、この回での勝負は避け、万全の状態で次回以降のチャンスに掛けることに。

 一旦浮上し、息を整えて再潜行。

 先程より若干明るい位置に移動していたため、シルエットの正体がキジハタであることは直ぐに解った。全貌をはっきりと確認することは出来ないものの、顔付きから察するに50cmは確実に超えてそうに見える。しかし、ヤスを向けるとすぐに岩下の奥へと隠れるなかなかのシャイボーイであったため、なかなか狙いが定まらない。撃ち所を選ばなければヤスをヒットさせるのは容易だったが、それでは確実に岩下の奥へと引き込まれるため、取り込みに苦労させられるのは必至。「狙うのは頭だけ…。」そう思いながら潜行と浮上を繰り返し、ファーストチャンスではなく、確実にモノに出来るチャンスを窺い続けた。

 何回目のアタックだったのだろうか。時間を掛ければ確実に獲れるパターンだと思って安易に考えていたが、いつしかキジハタは姿を現さなくなってしまった。次の潜行、そのまた次の潜行でもキジハタのシルエットは確認できず。

「おかしいなぁ…」

 そう思いながら岩下から視線を外し、周囲を見渡してみると

…あ、あれれ?…

 いつの間にかキジハタはすぐ隣の根の傍でホバってました。


 とりあえず手が届きそうな程の距離だったため、少し後退しながらヤスを撃ち込み、両鰓を貫通させて難無く捕獲完了。

 しかし…。ん〜。水面にてキジハタの鰓を抜きながら手尺で採寸してみたが、どう測っても40cm半ばしか無い。

「狙っていたキジハタとは別個体だな。顔付きも全然違うし。」

 そう思いながらキジハタをストリンガーに通し、ヤスを構えて再び岩下へ。

…で、いきなり居ました。キジハタ52.5cm。

 やはり先ほどまでの岩下の、同じ位置に。さすがに岩下の奥での攻防だったため、取り込みに少々リスクはあったが、ヤスは確実に頭部を捉えていたために主導権を握ることができ、その後は強引に抜き出して捕獲完了。

45cmオーバーを4匹!
 これで腰には45cmオーバーのキジハタが4匹。
 市場では幻の魚と言われるキジハタだが、果たしてこれが本当に幻と言えるのだろうか?

 この直後、隣の根の割れ目にゆっくりと入って行く45cm級のキジハタや、水深8mくらいの根周りで50cm級のキジハタを目視したが、さすがにこれ以上は手が出せず。

 ここから先はまた次回以降のお楽しみということで、一先ずこの場を引き上げる事にしました。


□ 2本目・ポイント・HN

 十分過ぎるほどの魚は獲れていたため、あとはビッグワン狙いの突行に。

 マダイ?クエ?回遊魚?何でも狙えるこのポイント・HNにて、本日2本目の突行を開始する。

 まずは実績の高い沖の沈み根を目指し100mほど沖へと泳ぎ出てみたが、何故かポイント付近へ到着するなり水中う●こがしたくなり、しばらく集中力の無い潜行を繰り返すこととなる。

 沖磯も無く、隠れる場所など何処にも無い大海原。
 同行者のサイモンさんの潜っている場所も把握できなかったし、船も通るし・・・、できれば我慢して潜り続けたかった。

…が、そんなオレの願望を生理的欲求が上回るのに、それほど時間は掛かりませんでした。

 容赦無く押し寄せてくる生理的欲求の波を前に、外界へと爆弾を投下することを決意したオレは、脱糞中の姿をサイモンさんに見られることだけは避けようと、とりあえずエントリーポイント付近の磯まで戻ることに…。

 しかしその数分後。。。

 ウェイトベルトの締め付けが苦しくなり、少しでも楽になろうとベルトを緩めた途端、不覚にもお尻のリミッターがカットされ、ウェットスーツを脱いでいないにも関わらず臨海状態に突入!!

 ・・・(汗)!!!

 直ぐにウェイトとヤスと水中カメラを一纏めにして海底に沈め、水中う●この態勢を整える。サイモンさんに見られても仕方ない。どんな綺麗な女優だってアイドルだって、うんこは出るんだ!…そんな勢いで背中のチャックを勢い良く外し、クリオネ状態に。

 ところが噴火直前になって、海水とウェット内との温度差にビックリしたのか、爆弾は引っ込んだまま出て来ない。しばらく様子を伺ってみたが、無理してまで不発弾を出すのもどうかな?と思い、一先ずウェットへと袖を通す。・・・で、次いでヤスとウェイトを回収しようと海底付近を見渡したところ、、、無いんです。全部、一式。

 急を要していたとは言え、目印となる根も磯も何も無い殺伐とした海底に落としたのがそもそもの間違い。しかも透明度ギリギリの水深に落としたんだよね。。。

 最初は気楽に考えていたが、10分、20分と経つうちに少しずつ焦りが見え始める。調度この頃サイモンさんと合流したため、事情を説明し、一緒に捜索してもらうことに。海は全体的に緩やかに流れており、正直この時点で、捜索を開始した場所すら解らなくなってしまっていた。さらには海水に濁りが入り始め、透明度が少しずつ悪くなっている。これでは海面からの捜索は不可能であり、ウェイトも巻かずに潜り続けるしか無い状況に…。時間が経つに連れて悪化していく捜索環境。小さな岩の割れ目や海藻などが手銛やウェイトに見えたりし始め、それが違うと気付く度に「もうダメか…」と諦めたくもなる。だが、メータークラスのクエや回遊魚に手銛を持って行かれ、命の危険を回避するためにウェイトをロストしたのならば納得がいくが、うんこをするために緊急脱皮した結果のコレだから・・・気持ちの上でも修まりが付かない。海面から顔を上げると、サイモンさんも真剣に探してくれており、それを見るたびに申し訳ないと思うと同時に、諦めようという気持ちは消えていく…。

潜行中のサイモン氏
 そして1時間後。

 「うぉぉぉぉぉぉぉ――――――っっ!!!」

 「あったぞぉ〜!!!!!!

 何も無いフラットな海底。

 水深12mに横たわる、ヤスとウェイトと、水中カメラ。

 見つけた瞬間、両手ガッツポーズでウルトラマンのようにヤスの元へ。

 久しぶりのウェイトは…、重かったなぁ。。。

 その後は疲労感MAXのため魚突きにはならず、サイモンさんの潜る姿を少しだけ撮影して、何事も無くエキジット。

 マジで相当疲れましたが、ホント見付かって良かった。。。

 貴重な時間を潰させてしまったサイモンさんには、この場を借りて改めて・・・ありがとうございましたっ!!



 あ、そういえばあの後、結局最後までうんこ出なかったなぁ〜(笑)。


場所 日本海某所
−突果写真−
天候 曇り
海況 弱風 波1.0m
 ――
透明度 12〜14m
潜水時間 8:30〜15:30
最大水深 25.5m (25.0℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン GARA2000HF
突果 キジハタ 53.5cm 47.0cm 45.0cm×2
イシダイ 55.0cm




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