突行記 ’07

『第5回 日本海遠征』
〜 思い出に残る1匹 〜
突行日 2007年 7月 8日

 師匠とアイシさんと決行した日本海遠征。3人揃ってクーラーを忘れたり、エキジット後には師匠の魚が猫に食べられかけたり…と、最初から最後までアクシデント続きだった今回の遠征ですが、最も心配していた海の濁りはそれほどではなく、個人的には大満足な突果&濃い突行内容に終始ご満悦。気分は上々。こういう突行があるから、魚突きはやめられないよね。

− 1本目 ポイント・EM −

 透明度7〜8m。天気は晴れ → 曇り。
 海は砂地ベースに、沖には沈み根が散在している。全体的にポイントは浅めだが、随所に適度な潮の流れがあり、雰囲気的には申し分無い。

 9時30分、準備も早々にエントリーを開始する。

 エントリー直後から沖へ沖へと泳ぎ出て、水深10m付近に散在する根周りを探るも、これといって目ぼしい魚は居らず。水深8mの岩陰に、まずまずのサイズのスズキが寝ていたが、クーラーボックス(市場で貰った発砲スチロール)の大きさに制限があるため捕獲は断念…。

 そのまま何事も無く開始から1時間が経過。さらに沖へと泳ぎ出て、ボトム16m、トップ5m程度の大きな根に到着する。根の中腹にて辺りを見渡すと、砂地の海底をスーッと泳ぐキジハタを発見。推定サイズは50cm。

 しばらくその動向を目で追っていると、砂地での一直線な泳ぎから一変、キジハタは根を駆け上がり、少し離れたワカメの生い茂る根の窪みへと姿を消した。

 一旦浮上し、呼吸を整えて再潜行…。

 キジハタは水深10m前後のポイントで、こちらを見ながらホバリングをしていた。射程圏内までは相当な距離があったが、こちらが動きを見せる前に反転し、ゆっくりと根を下って行く…。

 キジハタの行き先を目で追い、再浮上を選択。

 次の潜行時、キジハタは水深13m付近でホバリングし、こちらをガン見していた。オレが少し近寄ると反転し、今度はボトムまで根を降りて行った…。その後ろ姿をゆっくりと追いかけていくと、キジハタは大きくオーバーハングになった岩陰へと姿を晦ませる。

 再浮上…、そして再潜行…。

 大きなオーバーハングの下が、キジハタとの待ち合わせ場所。そこへ一気に下って行った。しかし、その場にキジハタの姿は見当たらず。見渡せば、オーバーハングの奥にポッカリと開いた横穴が…。ヤスゴムを引きながらその中を覗くと…そこには大きなコブダイがドーンと待ち構えていた。おそらくこの横穴の奥に逃げ込んだであろうが、中は暗くてそれ以上は確認できず…。何度かこの水深を往復してみたが、キジハタはそれっきり姿を見せなかった。

 仕方なく諦めて別のポイントへ…。

 さらに沖へ出てみたり、ポイントを左右にずらしてみたり。いろいろと頑張ってはみたものの、イマイチ魚影がパッとしない。キジハタに関して言えば、スルーサイズの個体を1匹見れた程度。その他の魚種も、全然ダメダメ。結局何の漁獲も上げれていないが、残り時間も少なくなってきたので、最初に大型キジハタを目撃した根に立ち寄り、そこでダメならそのままエキジットをしようと心に決め、フィンを漕ぐことに…。

 間もなくして目的の根に到着。

 1回目の潜行から運良く良型のキジハタを確認することができた。最初に見た大型の個体とは明らかに違うが、それでも40cmは超えている。水深は10m前後。キジハタは根の壁面にへばり付き、上から覗き込むオレに対し、見上げるようにしてホバリング。真正面からロックオンの末、セオリー通りに横を向いたキジハタの横っ面に向けて容赦なくヤスを撃ち込んだ!

「ブシュッ…!!」

 撃たれた瞬間から勢い良く暴れ出すキジハタ!綺麗に両鰓を貫通したため、鰓が大きく割れてヤスがすっぽ抜ける可能性が脳裏を過ぎった…。『ここは確実に取り込みたい』との思いから、チョッキに頼らず、ヤスを中心にクルクルと周るキジハタを直に掴むためにさらに潜り、そこから再び海面へと向かおうとした…

 …その時…。

 近くの海藻が生い茂る岩棚の上に、激しい違和感…。

 …?

 …キジハタ…!?…しかもくそデカくねぇ!?

 岩棚の上で、興味深い面持ちでこちらを凝視するキジハタ…。

 オレは突きたてのキジハタを思わず後ろ手に隠し、ゆっくりと浮上するしかなかった。

 手に取ったキジハタの鰓を即効で抜き取り、「暴れるなよ…」と一声念じてストリンガーへと通す…。潮の流れがあったため2〜3度無駄な空潜りを要したが、大型キジハタの待つ根への再到着にはそれほど時間はかからなかった。

 大きく息を吸い込み、臨戦態勢でキジハタの待つ岩棚へ。

 水深は13m程度。

 一旦岩棚の下まで潜り、そこから浮上して海藻越しに様子を伺ってみる…。

 「で…、デカい。」

 キジハタはほぼ同じ位置でホバリングを続けていた。55cm…超?とにかく自己記録を大きく更新するサイズであることは間違いない!!

 オレは興奮を抑え込みながらもゆっくりとヤスをキジハタの頭部へと向け、静かな流れで数秒後にはロックオンを完了。しかしキジハタとは真正面を向き合っているため、このまま強引に撃ち込むのは少々リスクがある。射程圏内での根競べ…。横を向けばオレの勝ち。クイックターンをされればオレの負け。今まで何度こうしてキジハタを獲ってきたことか。

「コイツも同じだ。今までと同じ…。焦らなければ絶対に獲れる…。」

 早く撃ちたい衝動を抑えながら、普段通りに平静を装っていた…が、そんなオレをさらにテンパらせるような出来事が…。

「早く横を向いてくれ…。」

 …と祈るオレの視界に、もう1匹のキジハタのシルエットが映る…。しかもそいつはロックオン中のキジハタよりもさらに手前(左斜め下)に居た!かなり近い!そしてサイズはなんとこちらも50cmクラス!比べて見れば一回りニ回り小さく見えたが、それでも圧巻の光景だった。射程圏内に50cmオーバーのキジハタが2匹も…。手前のキジハタは少し窪んだ岩の上でホバリングしており、海藻が良い感じにブラインドになっているために体の側面が丸見えだった。ヤス先を少し左下に向ければ確実に、そして最高のポイントに撃ち込めそうな雰囲気。ほんの一瞬だけ『妥協案』が脳裏を過ぎったが、そんなものは0.1秒で却下だ。そんなことよりむしろ手前のキジハタが無駄な動き(警戒)をして、ロックオン中のキジハタの警戒心を煽らないかが心配だった。

「この状況下でクイックターンをされては溜まったもんじゃねぇな…。下手すりゃ2匹揃って逃げられるぞ…。」

 そんな理由からいつもより早めにヤスを撃つことを決意。右手をゆっくりと動かしながら少しずつヤス先の角度を変え、キジハタが完全に横を向く前に(斜め45度から)強引にヤスを撃ち込んだ。

「ドスッ…!!」

 最高に良い手応えだった。

 次の瞬間、ヤスは左の側頭部から右のどてっ腹を深々と抜けていた。キジハタは左右に力強く身体を振ったが、完全に串刺し状態となったヤスからは逃げる術など無い。腹の傷口からは気泡がボコボコっと吹き上がった。いつもより幾分大きな両鰓の付け根をガッチリと掴み、ヤスが刺さったままの状態で海面へと向かう。浮上と共に込み上げる喜びと興奮…。そしてそれを抑えきることが出来ず、水中で小さく2度3度ガッツポーズ。久しぶりに味わう深い充実感と達成感だった。

キジハタ 58.0cm!デカぃっ!!
「めちゃくちゃ嬉しい…。」

 ナイフを使って鰓を抜き取り、手尺でサイズを確認。

 いち…にい…ご、50後半!!??

 おぉぉぉ ―――――――― っ!!!

 ストリンガーに通すと、並んだ1匹目の個体(43cm)がえらく小さく見えた。それがそれでまた嬉しかった。陸へと泳いで帰る途中、何度も何度も体を擦ってしまう…。いやー、ホント嬉しい。まさかキジハタ1匹でこれほど喜べるとは…。キジハタ58cm、大幅な自己記録の更新に成功です!


− 2本目 並んだ沖磯ポイント −

 国道から見える景色だけを頼りに開拓したポイント。遠目ではかなり良さそうな雰囲気が伺えたが、エントリーポイントは漁港のすぐ近く。とりあえず漁港からは死角に当たるため、“大丈夫だろう”という楽観的な思考の下でエントリーを開始する。

 とりあえず沖に幾つか見える磯を目指して泳ぐことに…。

 …15分後、沖磯に到着…

 沖磯には釣り人が居たが、ちょうど入れ替わりのようなタイミングで帰ってくれたため、変に気を使うことなく魚突きに没頭できた。ちなみにこの海域の海底状況は素晴らしく、アップダウンの激しい岩棚に適度な潮の流れが加わり、抜群の雰囲気を醸し出していた。

「キジハタやクエの1匹や2匹は間違いなく居るはず!」

 そう確信し、何時・何が現れても不思議ではない海底環境にて、期待の空潜りを繰り返す…。

 実際に魚影は濃かった。しかし、魚影を構成するメインはスズメダイ、メジナ、サンバソウ等の小魚で、期待しているようなハタ科の大物は現れない。イシダイのアベレージも40cm未満。そんな中で唯一(偶然)現れた大型のクチグロ(58cm)を強引に寄せて捕獲したのは良いが、その後が全然続かない。

「雰囲気はメチャクチャ良いポイントなのに…」

 開始から1時間が経過。捕獲したイシダイ以外に、良い魚は1匹も現れず。若干諦めモードで海面を漂っていると、アイシさんが近くを通り掛かったために声を掛けてみた。

「何か良い魚見ましたか?」…と、オレ。

「ここは青物が凄いね!!」…と、アイシさん。

「えっ??」

 回遊魚!?オレ、そんなの1匹も見てねーぞ!!!半信半疑ではあったが、とりあえずアイシさんに言われたとおり、潮辺りの良い沈み根で軽く潜り、そのまましばらく周囲の様子を伺っていると…

 …!?

 ヒラマサ軍団登場!!!(50cm級・50匹以上)

 オレは今まで何をしていたんだ(苦笑)??

 サイズこそ微妙だったため、いきなり手を出すことはなかったが、久しぶりに見る回遊魚の群れを前に、低かったモチベーションは一気にヒートアップ!雰囲気の良い根回りにてその後に続く大型の回遊魚の群れを期待して空潜りを続けたが、残念ながらそれ以降は単発で現れる50〜60cmクラスを2,3回見れた程度…。ちなみに当初のお目当だった大型のハタ類は、キジハタとクエのスルーサイズを1匹ずつ見たのみ。もっともっと時間を掛ければ、さらなる大物や驚愕の魚影を目の当たりにすることができそうだったが、今日は1本目のキジハタ1匹で『欲』がほぼ満たされているため、いつものような貪欲パワーが出て来ない…。なんとか予定の時間までは潜り続けようと思ったが、集中力と体力の低下と共に寒さによる震えが出始めたため、2本目は開拓の成功という結果だけに満足し、次回への期待と共に予定より早めの納銛としました。



場所 日本海某所
−突果写真−
天候 晴れ→曇り
海況 風速2m 波1.0〜1.5m
小潮 干潮 12:30
透明度 7〜8m前後
潜水時間 9:30〜15:00
最大水深 16.5m(23.2℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン エスカペ
突果 キジハタ 58.0cm(自己記録) 43.0cm
イシダイ 58.0cm




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