突行記 ’07

『第6回 日本海遠征』
〜 波乱万丈な一日 〜
突行日 2007年 7月 11日

 梅雨の合間の日本海遠征。同行者は潜り友達の水君。

   波予報 2.5m のち 1.5m
  ・ 前日までは雨続き。

 波の高さと、雨水による海水の濁り…。事前に情報は仕入れていはいたものの、「せっかくの休みだし…何とかなるだろう」的な考えから突行を決意。現実的には「ちょっと考えが甘かったかな?」というのが遠征を終えた時点での感想ですね。とにかく今回の遠征は“波と濁り”に振り回された一日だったような気がします。


 −1本目 タカッパランド −

『午前の波があるうちは湾内で潜り、海況を見て湾外へ出る』という漠然としたプランの下、早朝から車を走らせて日本海入り。道路(崖の上)から見るタカッパランドは穏やかに見えたが、実際に磯場まで降りてみると意外と波が高かった。潜れないという程ではなかったが、若干テンションは下降気味。それでも気合を入れてエントリーを開始するも…そこで待ち構えていたのは強烈な激濁り。白濁した海水の中で4〜5回潜行を繰り返してみたが、3m弱という透明度の前に戦意喪失。もちろん良い魚なんて見れるわけも無く、即効でエキジット。


 −
2本目 ポイント・OH −


 どうせ波が高いなら、外海に面した綺麗なポイントで潜りたい…との思いから、予定より早めに外海への移動が決定。さすがに波は高かったが、安全圏内だと判断して海へ入ることに…。

 これが大きな誤算だった。波に加えて流れがきつく、沖まで出ると思うように泳げない。釣り人がいないのを良い事に、調子に乗って岬を越えると、元に戻れなくなってしまった。磯周りでは打ち付ける波に自由を奪われ、潮に巻かれて大回転。白泡で視界はゼロ。右と左ではなく、上と下が解らなくなった時は、さすがに「やばい」と思った。結局そのまま流れに逆らって帰ることも出来ず、崖を攀じ登ってエキジット。そのまま山道を歩いて帰り、疲労困憊のままエントリーポイントへ。


 −3本目 ポイント・HN −

 20分ほど車を走らせ、外海に面したポイント・HNへ。打ち寄せる波は相変わらず↑↑。テンションは↓↓。車内で軽く昼食を取り、今後の動向について水君と相談会を開いた。出た結論は…『1時間の昼寝。その後、海況が少しでも落ち着いたところでエントリー!』…我ながら完璧過ぎるプランだぜ…。

 …1時間経過…

 「お、おはようございます。あれ?波…。波が…むしろ高くなってません?」

 「…。…のようですね。」

 「どうしますか?」

 「せっかくここまで来て、1時間も待ったんだしさ…。」

 「じゃ、軽めに行っときますか」

 お互いに重い足取りで波打ち際へ。波がダイレクトには当たらない浅場でのエントリーだったが、腰まで海に浸かった時点でトリプルアクセル。そして着地失敗。再び腰まで浸かり、2度目の挑戦は頭から平泳ぎのような感覚でスタートを切った。しかしその数秒後、波に押し戻されて強制エキジット。今度は着地が決まり、気付けば何故か上手くエントリー地点に立っていた。…が、もちろんそんなことは問題ではない。横を向けば水君が半笑いでこっちを見ている。

 「止めましょう」

 二人の意見が一致し、三度目のポイント移動を試みる…。


 4本目 ポイント・MT(新ポイント)−

 湾外は高波。湾内は激濁り。ということで、その中間となる湾の出口付近で潜ることに。

 エントリーとエキジットの安全を確認し、○時○分より突行を開始した。

 海底は沖に出るに従い、なだらかな斜面となっていた。水深20mまでの海底は岩場がベースだったが、その先は解らない。とりあえず水深15m前後のラインを探りながら湾の出口にある岬へと泳いで向かうも、あまりの魚影の薄さに愕然としてしまった。メジナの群れはちょくちょく見かけるが、イシダイや青物、ハタといった類の魚は一度も見ることが出来ない。透明度がそこそこあり、雰囲気も悪くないだけに引き返すに引き返せない状況が続く…。そして何事も無く、予定では折り返し地点と考えていた岬へと差し掛かった。

「このまま岬を周って外海で潜るのも悪くなくない?」

 そう思い、岬の突端付近へと向かって泳いだ。顔を上げると、岬が少しずつ遠退いて行くのが確認できた。

「うぉーー。もう勘弁して下さい!!」

 直ぐにヤスゴムを首に掛け、両手を大きく使って懸命にクロール!もちろんフィンも蹴りまくった!半べそかきながらもほんの少しずつだが前へと進むことができ、必死の思いで流れからの離脱に成功。まともな魚突きすら出来ていないのに、こんな辛い思いばかりするなんて…とにかく今日はやる事為す事全てがデンジャラスだった。極端に間違った判断はしていないつもりだったが、どんな行為も結果は裏目裏目に出てしまう。

「は〜、しんどいわ。。。」

 結局岬からは出る事が出来ず、来た道を泳いで引き返した。

…というわけで、4本目もボウズでエキジット。ちなみにここでは水君が美味しそうなイシガキダイを獲っていた。しかも水深7ラインで40cm強のキジハタも見たらしい。聞けば深場よりも浅場の方が魚影も濃かった様子…。

 当初の予定ではこれで終わるはずだったが、日本海まで来てボウズで帰るのも勿体無い気がする。最低でも夜の肴くらいは獲って帰りたい!…というわけで、急遽30分限定のラストダイブを決行することに。浅場でハコフグでも獲りながら、運良く良い魚に出会えることを願いながら…。


 −5本目 ポイント・MT −

 本日最後の海へと入った。まずは水深5〜6mのラインで、真剣モードのハコフグ探し。ところが、いつも良く見かけるハコフグも、獲りたい時に限ってなかなか姿を現さない。

 開始から10分が経過。

「おっ!?」

 半ば諦めモードで海面にて呼吸を整えていると、水深4〜5mのラインを泳ぐ見慣れたシルエットを確認することができた。

「イシダイ!!しかも浅い割には良型!!」

 イシダイはそのままゆっくりと泳ぎ去り、視界の外へと消えて行った。それを確認するなり潜行を開始。水深は僅か5m前後。ちょうど良い所に大きな岩がドーンと出ていたので、それに身を隠しながらゴリ寄せを試みる。数秒…、十数秒…、イシダイのシルエットは全く見えない。手袋が豪快に破れていたため、左手の爪で直接岩を引っ掻いた。何度も何度も引っ掻いた。ここは水深5m。息止めなんて全然気にならない。とにかく寄せまくった。数十秒間に渉り、一定のリズムで音を出す。

 ……ゴリゴリゴリゴリ……ゴリゴリゴリゴリ……ゴリゴリゴリゴリ……

 …ゴリゴリゴリゴリ…

 …!?

 …ニヤリ(笑)…

 薄っすらと白濁した海の向こうから、満を持してイシダイが現れた。「もう我慢ならねーよ!!」ってな感じで、一直線にどんどん近付いて来る。これがまた面白くて溜まらない。視界の外から寄せて寄せて寄せまくって、真横を向いたところで至近距離から眉間に撃ち込んだ。


 
ブスッ…!


 撃たれたイシダイは微動だにしない。

 この日初めて見ることが出来た40cmオーバーの個体を、確実に捕獲できた事に自己満足。ストリンガーに通ったイシダイは、丸々と太った51cm。我ながらグッジョブだ。とりあえずオカズは確保できたが、日本海までの行きの車内で「水君、今日はお土産にデカいイシダイを持たせるから!貰っても困るくらいのヤツをね(笑)♪」と宣言していたので、それが気になり調子に乗ってもう少し粘ってみることに…。

 2〜3度近くのポイントで寄せと潜行を繰り返したが、成果が上がらないために今度は斜面沿いに少し深場まで潜ってみた。そして大きな岩に掴まり、周囲の様子を伺ってみる…。しかし、深場の魚影は相変わらず薄い。やはりこのポイントは浅い深度に軍配が上がるのかな?と、斜面から浅場を見上げると…

「ぬぉっ!」

 デカい!!

 なんとオレの待つ水深よりも4〜5m浅いポイントで、大型のイシダイがゆっくりと泳ぎ去ろうとしているのを確認。完全に下から見上げる形になったため、サイズは良く判らない。急いで自分の身体を近くの岩に固定し、上方に向かってゴリ寄せを施行した…。


 ……ゴリゴリ……ゴリゴリ……


 イシダイは直ぐに興味を示してこちらへと寄って(降りて)きたが、射程圏内へはなかなか入って来ない。もどかしい時間を過ごすと共に、オレの息止め時間も限界に近付き始めた。

「ちょっと強引に行ってみるか…」

 オレの斜め上方・射程ギリギリの距離でフラフラと泳ぐイシダイに対し、浮上しながら少しずつ距離を詰めてみる・・・。しかし追いかけられる立場になったイシダイは、ゆっくりと逃走を開始し、確実な射程圏内には捉える事ができない。寄せるだけの余裕も無ければ、このまま追い続けても逃げられるパターンだ…。「これが最後の手段だな。ちょっと初心者っぽいけど…、ダメ元でやるしかない。」オレはヤスを握った右手を竦め、フィンを加速して勢いよくフィンダッシュ!そしてイシダイに最も接近できた一瞬にタイミングを合わせ、右手を思いっきり伸ばすと同時にヤスを撃ち込んだ!

「おりゃーーーーー!!届けぇーーーーー!!」

 チョッキは辛うじて背鰭の付け根を捕らえた!…が、さすがにこのクラスのイシダイ。こんな所を突いてしまっては、走り回られるのも当然だった。とにかく今までにない激しい突っ込み!ラインを伸ばしまくって、下へ下へと突っ走る!オレはゴムのテンションでイシダイの突っ込みを交わしながら、徐々に海面へと向かった。イシダイに引っ張られて浮上速度が遅く感じたのは今までに無い経験。とにかく、引き込む時はそのくらい強烈なパワーを感じる事が出来た…。

 しかし、いくら大物とはいえ、やはり相手はイシダイ。メータークラスの回遊魚でなければ、大型のクエでもない。ラインブレイクと身切れにさえ気を配れば、力と力の駆け引きで負けるはずはない。息止めの苦しさも忘れ、イシダイの力を騙しながら出来るだけゆっくりと海面へ…。そして海面へ到着するなりラインを手繰り寄せ、しっかりと抱きかかえて両鰓の付け根を鷲掴みに・・・ふぅ〜。勝負あったぜぃ。

最後の最後にミラクルが…
 浅場でのやり取りだったため、捕獲に関する充実感はそれほどなかったが、手にしたイシダイの意外な大きさに、喜びの色は隠せない。海から顔を上げて陸の方を見ると、水君が酒の肴にとカサラガイ等を拾っているのが見えた。

「お〜い、獲れたよ〜!」

 と、まずは51cmの個体を見せる。水君はいつもの笑顔を見せ、拍手のジェスチャーで祝ってくれた。そして間髪入れずに2匹目の個体を海面から突き上げると、さらに驚きのジャスチャーでオレを称えてくれた!いや〜、嬉しいね!デカいイシダイが獲れたことよりも、こうして水君に褒めてもらったことの方がよっぽど嬉しかったな。

 陸に上がって計測してみると、大きい方のイシダイは68cmだった。惜しくも自己記録には1cm届かなかったが、まーそれはそれで全然構わない。むしろこんな獲り方で獲った個体が自己記録になった方が納得いかないしね。

 結局全5本のダイブのうち、またもに潜れたのは最後の2本だけ。

 しかも泣きの5本目は30分程度の超短時間突行。半分以上諦めながらもこの短時間でビシッと結果が出せるのは…もうスキル云々の話じゃないね。運だわ、まじで。

 今年は結構良い感じかもよ。



場所 日本海某所
−突果写真−
天候 曇り
海況 風速3m 波2.0〜2.5m
中潮 満潮 12:30
透明度 2〜6m前後
潜水時間 ‐‐:‐‐〜15:45
最大水深 14.5m(23.0℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン エスカペ
突果 イシダイ 68.0cm 51.0cm




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