突行記 ’07

『第4回 日本海遠征』
〜 激濁りの海の中で 〜
突行日 2007年 6月 27日

 潜り仲間の水君と、梅雨の合間に日本海遠征へ。

 海はベタ凪、ほぼ無風。空こそ晴れてはいなかったが、濁りのある海ではむしろこのくらいの天気の方が視覚的に良い。前日まで振り続いた雨の影響から、それなりの濁りは覚悟の上での突行だったが…実際の海はそんな想像をはるかに超える厳しいものであった。

− 1本目 ポイント・SP −

 朝7時過ぎよりエントリーを開始する。海面からの透明度は2m前後。場所によっては伸ばした手の先が霞むほどの強烈なサーモクラインが海面を広く覆っていた。その層を抜けるとある程度は開けて見えたが、それでも春濁りの影響からか透明度は良くて5m程度。潜ればなんとかなる透明度ではあったが、言い返せば“潜らなければ全く話にならない”コンディションだった。とにかく海面から根の位置が全く把握できないため、無駄な労力ばかりを使ってしまう。少々の濁りは気にならない程度にこのポイントを熟知しているつもりだったが、さすがにこの状況下では途中からウンザリしてきた。しかも魚影がメチャクチャ薄い。過去に実績のある根回りを中心に攻めてみたが、苦労も虚しく何の成果も上げることができない。沈み根から隣の根への移動中、何も無い砂地で20匹ほどのメバルを引き連れて悠々と泳ぐ“みにくいアヒルの子”状態のキジハタ(45cm弱)を1度だけ確認できたが、駆け引きの途中、慎重になって一旦浮上してしまったのが運の尽き。砂地だったために目標物も無く、軽い潮の流れに微妙に流されて…キジハタとメバルの群れはそのまま行方不明に…。

 結局1本目は何の突果もなくエキジット…と思いきや、帰り際に水深10〜12mの沈み根にある深い岩の亀裂(横方向)を何気なく覗いてみると、中にハタ科のシルエットを確認することができた。中は薄暗くて良く見えなかったが、こちらを向いたままホバリングを続ける姿勢から察するに、おそらく40cmクラスのキジハタであろうと判断し、徐にヤスを構える。そして横を向いたタイミングに合わせ、ヤスを撃ち込んだ!

「…!?」

 手早くヤスを岩の割れ目から抜き出し、空かさずラインを手繰り寄せる。

 出て来た魚は…クエ…!

 …。

細いねぇ…
 クエ…でしたか…。

 正直言うと、向かい合ってロックオンしている際に「いつもより顔付きが細い?」とは感じていた。横を向いた瞬間、ヤスを放つ前に、その体色からキジハタでないことも確認できた。しかし、その時はすでにオレの狩猟本能がGoサインを出した後の状態で、ヤスから手が離れて行くのを止めることは出来なかった。

「何だ?この微妙な罪悪感は…。」

 スレンダーなクエをストリンガーに通し、陸へと泳ぎながら自問自答を繰り返す。

「良いじゃん、別に…。」
「これが釣りなら凄ぇ〜喜んでるよ、きっと。」
「気にするなって…。」
「マダイやマハタのこのサイズだったら…獲るじゃんね?」
「この透明度なら仕方ないって…」

 思いっきり自分を正当化しながら、9時15分、1本目のエキジットとなる…。


− 2本目 ポイント・MO −

 何より雨水による透明度の低下が問題だ…ということで、その影響を少しでも和らげようと、とりあえず河川から離れたポイントへと移動することに。

 ウェットスーツを着たまま車に乗り込み、地元民にしか知り得ないようなマニアックな山道を走り抜けること15分。ようやく海が見えたところで視界に入ってきたのは、魚が居付きそうな雰囲気の良い海岸状況と、沖に見える潮当たりの良さそうな岬…。

「おーっ!ここ良いねぇー!」

 ここでようやくテンションが上がり、その勢いのまま2本目の突行を開始した。

…が…。

 このポイント移動に関してはかなり良い案だと思っていたのだが、結果的には思いっきり不発に終わってしまった…。車を走らせて大きくポイントをずらしたにも関わらず、サーモクラインも海中の透明度も全く改善されていない。そのうえ初めてとなるポイントなので、根の位置や魚の集まるポイントなどが全く把握できず、無駄な空潜りばかりを繰り返してしまう。いくら頑張っても、どれだけ潜っても一向に良い魚に出会えない。海底環境は決して悪くは無かったが、潮があまり動いていなかったのが原因だろうか?結局2時間かけても突果・内容共に収穫はゼロ。確認できた一番の大物は、イシダイの25cmクラス…。結局日本海での久々の開拓は、近年稀に見る大失敗に終わってしまった。


− 3本目 ポイント・HP −

 どうせ透明度が悪いのなら、地形(海底環境)を知っているポイントで潜った方が賢明である事を痛感し、最後の1本は潜り慣れたポイント・HPへと向かった。草木が生い茂る山道を歩いて降り、プライベートビーチのような砂浜からエントリーを開始する。

 やはり透明度とサーモクラインは相変わらず…。しかし、ポイント全体が比較的浅い上に、沈み磯の位置を把握しているため、ほとんど無駄な空潜りをしないで済む。地形的にあまり大物は期待できないポイントだが、魚影はピンポイントに集まっているため、集中力も持続し易く、嫌なストレスも溜まらない。

 魚影の濃い沖磯までは泳いで約10分。そこから本格的に魚突きが始まった。

 イシダイは沈み岩各所で群れを生していた。しかし、魚影はかなり濃い反面、アベレージサイズが30cmと少々物足りなさを感じる魚群でもある。どこでどれだけ寄せても40cmオーバーは現れない。今まで何度となくこのポイントで潜ってきたが、ここで50cmオーバーのイシダイを突くという事は、ほとんど“奇跡”に等しいことだろう。

 …というわけで、寄って来るサンバソウ軍団をドスルーし、時計回りに沖磯周囲を回りながら攻めてみることに。

 まず最初に現れた捕獲対象魚は65cmクラスのスズキ。“これからが旬”と言わんばかりの美味しそうな個体だった。水深は6m程度。何も無い砂地の上にお昼寝中だったため、ゆっくりと潜行し、落ち着いて真上から頭部目掛けて撃ち込んだ…が、無情にもヤスはスズキの側頭部から数cm離れた砂地に向かってダイレクトに突き刺さる…。
 睡眠を邪魔され不機嫌そうに逃げるスズキと、それを見て悶えるオレ。

 その後は海面をフラフラと泳ぐ、“いりこ”の様な激痩せスズキ(60cm弱)を目撃するも、あまりにも美味しく無さそうだったのでスルー。メバルやアイナメを獲ろうと思えば獲れるのだが、なかなかそういう気分にもなれず。

 結局言い訳ばかりで何も突けぬまま、時間だけが経過していった。気付けば制限時間は残り15分。さすがに3本目のボウズが脳裏を過り始めた…。

 …その時…

 当てもなく海底付近を徘徊していると、水深7mの折り重なった岩陰にキジハタシルエットを確認することができた。

 サイズは40cm弱だったが、周りに群れているイシダイが小さいため、このサイズでも十分立派に見えた。

「お、お前に会いたかった…。」

 とにかく獲りたい一心。殺気剥き出しでヤスを構えて近付き、真正面からロックオン!なかなか横を向かない挙句に掟破りのクイックターンを見舞われ、捕獲までには4〜5回の空潜りを要したが、終始一つの岩下周りでの駆け引きだったためにそれほど苦労した感じはしなかった。最後まで焦ることなく確実性を重視しながら…きっちりと捕獲完了。キジハタ37.5cm。


 それから僅か5分後…。

 今度は少し沖に離れた沈み岩に潜り、しばらく周囲の様子を伺っていると…右方向から熱い視線…キター!!DEBUKIJI☆!!砂地の海底からせり出した背の低い岩棚の上に身を乗り出し、こちらをガン見するキジハタの姿を確認!しかもサイズは50cm弱と申し分無い。

最後の最後で…
「最後の最後でこんなラッキーが続くなんて…。」

 距離にして約3m少々。海の神様に感謝しながら近寄った。そしてセオリー通りに真正面からロックオン。それからものの数秒後、キジハタは素直に横を向き始めた。それを見るなりもう一度海の神様に感謝し、至近距離からヤスを撃ち込んだ…。
 暴れるキジハタと、それを掴まえて悶えるオレ。

 キジハタを取り込んだ後、陸に向かって泳ぎながらこの日一日を振り返ってみる…。


 海は決して良くなかった。

 でも最後まで諦めなかった。

 今日はただそれだけ。


 勝負を諦めた人に、チャンスは回って来ない。




場所 日本海某所
−突果写真−
天候 曇り → 晴れ
海況 風速2m 波1.0m
中潮 満潮 9:30
透明度 3〜5m ※ 強烈なサーモクライン
潜水時間 7:15〜15:30
最大水深 12.5m(22.0℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン エスカペ
突果 キジハタ 48.0cm 37.5cm
クエ 44.5cm




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