釣行記

『九絵』

突行日 2005.7.27


台風7号の接近により、今回の島根遠征は見送る予定だった。ところが進路の変更に伴い、日本海での突行が可能な状況に。幸いにもここ数日の山陰地方は纏まった雨も降っておらず、当日の天候も晴れ予報。風も無し。波は多少残っているかもしれないが、贅沢ばかりは言ってられない。

■ 1本目(サケガシラポイント)

7時過ぎ、いつもの場所よりエントリーを開始。まずは湾内の砂地地帯を抜け、これまでの突行で開拓してきた実績のある根城や岩穴をピンポイントで探って行く。透明度は5〜8m。陸からは比較的穏やかに見えた海面状況は、湾外へ出ると様子が一変していた。波長の短いバジャバジャ波に頭を揺らされ、開始早々からやや波酔いモードに。全体的な魚影もこの時期としては明らかに薄かった。メバルとメジナは相変わらずだが、良型のイシダイはほとんど見かけない。

1時間程で根城探索は終了。成果は皆無。どの岩穴(岩下)にも期待していた魚はおらず、加えて根周りの魚影も薄い。ヤスを構える事すら出来なかった。高いモチベーションで臨んだ突行も、こうなればテンションは急降下。早めのポイント移動も考えたが、それすら気が乗らない。「あぁ〜あ。これからどうしようかな・・・。」そう思いながら、あても無くダラダラと海面移動をしているうちに、いつのまにか体は潮当たりの良いエリアへと向かっていた。

流れのままにフィンを蹴り、潮通しの良い離れ磯へと到着。そこだけはなぜか海水の雰囲気が違って見えた・・・。ここに足を踏み入れたことは以前にもあったが、ここまで何かを感じた事は無い。海面には無数の小魚と、近くの海藻付近にはヒラスズキの若魚(30〜40cm)が5〜10匹。磯周りはいきなり10m以上落ち込んでおり、その中層付近をイシダイのシルエットが見え隠れしている。非常に熱い。何度か空潜りを繰り返して様子を伺うと、このポイントでは初めて見たイシガキダイ、ムラソイ(共に30cm強)、マハタの幼魚までもが顔を見せ、局所的な魚影の濃さを存分に感じさせてくれた。

サイズ的にもヤスを撃つには至らなかったが、普段はあまり見ることのない魚を前に、テンションは徐々にヒートアップ。そんな矢先、同一エリアの海底付近(−12〜3m)を平行移動していると、突如自分の真下にあった“何か”が飛び出した!


「ドドドドド・・・・・・」


地鳴りのような音を残し、一目散に飛び去って行った物体は大型の根魚。サイズはおそらく50〜60cm程度。ほんの一瞬の出来事だったため、魚の種類は全く同定できず。一瞬にして視界から消えたその後ろ姿から解かったのは、ボディーカラーが“茶色”ってことだけ。不覚にも完全にノーマークでした・・・。いや、それどころかあまりに至近距離での出来事だったので、結構ビビってましたね。。。

しかし何だったんだろう、今の魚は・・・?大型のハタか、もしくは超大型のソイか。あのサイズ、そして水中に振動として伝わる程のダッシュ力。ハタ科の魚と考えるのが自然だろう。ならばクエか?マハタか?キジハタか?しかし無意識とはいえ、こちらが完全に射程圏内に入るまで海底でじっと動かなかったって事は・・・やはりソイなのか?ん〜。まぁ、どっちでも良いか・・・。獲れなかった事に変わりは無い。そう思いながら何気なく魚の逃げていった方向に泳いでいくと、おそらく先程の魚であろう茶色の大きなシルエットが、とある岩穴の手前で身を翻し、穴の奥へと入り込んで行く姿を再び目にする!

「おぬし、何奴じゃ!?」

直ぐにヤスを構えて穴を覗いたが、穴は狭いうえに深く、しかも途中で屈曲している様子。何度か潜行と浮上を繰り返し、穴の周囲・形状・抜け穴を探ってみたが、捕獲への兆しは一向に見当たらず。15分後、不本意ながらも捜索を打ち切ることになった。

しかし、この一帯の魚影や今まで見たこと無かった魚達、大型根魚との2度に亘るミスマッチを目の当たりにし、明らかに自分の中で高ぶるものを感じる。開始からウダウダとダレていた闘志にも、ようやく火がついた。フィンを蹴る脚にも自然と力が入る。

勢いそのままに、沖へと漁場を移すことに。海底に点在する根を頼りに、比較的潮流を感じるポイントを選びながら・・・。それから10分後、なすがままに選んだ行き先が、最終的に最高の魚に合わせてくれた。大きな根と根でできた谷間に、1匹のハタ科のシルエット!!

「クエだ!!」

クエとの距離は5m以上。しかし奴はすでにこちらを向いてホバリングをしている!下手にプレッシャーをかけてしまっては、一瞬にして視界から消えてしまうか、近くの穴に入り込まれるだろう。穴に入るとはいえ、こちらにとって都合の良い穴にそう易々と入るとは思えない。無論、寄る魚でも無いだろう。さぁどうするか!?いつものオレならここで消極的な策を取り、一旦浮上して様子を伺い・・・そして、いつの間にか見失ってしまう。この結果、失敗して残るものは何も無い。唯一残るのは「また守りに入ってしまった」という後悔の念だけ。ならば今日は、、、攻めます!!

平常心でヤスを構え、クエに向かって泳いで行った。変に時間をかけて死角から寄るような真似はせず、ストレートに向かい警戒される前に撃ってやろうと思って。


5m…4m…3m…


うっ…。


…。


やはり無謀だったか!?


奴はホバリングを止めて身を翻し、ゆっくりと泳ぎ去ろうとしている。警戒心がMAX寸前なのか!?かなり嫌な展開だ。これ以上刺激しないよう、小さなフィンキックで距離を詰めようとしたが、こういう状況になってしまっては手の施しようがない。徐々に離され、逃げられるのは時間の問題だろう…。

ところがその直後、ヤツは2,3度尾鰭を振り、スーッと一直線で近くの岩下へと向かった・・・。そして何を思ったのか岩下の直前で身を反転させ、再びこちらを向いてホバリングを始めた!

「まだいける…!」

姿を見失わなかっただけでも儲けもの。しかし、ヤツはその気になればいつだって岩下に逃げ込むだろう。相変わらずこの状況はどうすることも出来ない!あるとすればただ一つ。もう一度正面から勝負を挑み、クエが血迷って隙を見せるのを期待するしかない!穴に入られたら、またその時に考えれば良い!

小さなフィンキックから少し加速し、再びクエへ向かって一直線!(マジでこんな無謀な玉砕戦法しか思いつかなかった!)・・・頼む!


…4m…3m…2m…あと少し!


撃てば確実に当たる距離まで来た。しかし真正面!おそらく刺さらない!


あと少しが、、、非常に遠い!!!


結局ギリギリの所で岩下へ入られてしまった。一旦浮上し、呼吸を整え再潜行。祈るような気持ちでクエの入った岩下を覗いたが・・・、やはり見えない。。。目を凝らして中の様子を伺うと、穴は1m程で行き止まり、そこから横方向に抜け道がありそうな雰囲気が・・・。

「逃げられたか!」

今までクエしか眼中に無かったが、岩下から視線を上げて辺りを見渡すと、いつのまにかいろんな魚が集まっていた。メジナ・・・コブダイ・・・イシダイ・・・メジナ・・・イシダイ・・・イシダイ・・・コブダイ・・・イシダイ・・・クエ・・・、

ク、クエ!!??

なんとオレが覗いていた岩下、その隣の大きな岩の上でクエが暢気にホバリング!!体制的にはオレがクエを下から見上げる格好だ!オレの経験上、魚は下からだと何故か突き易い。一矢報いる最初で最後のビッグチャンス!!ゴムをゆっくりと目一杯引き、岩を這うようにして出来る限り死角から詰め寄る・・・。静かに・・・、早く・・・!
数秒後、ついに射程圏内へ!クエの喉元の厳ついラインを下から見上げ、思わず息を呑む。要塞のようだ!イメトレにも出て来なかった在り得ないシチュエーション。ロックオン直後、オレに気付いてか気付かずしてか、ゆっくりと旋回を開始するクエ・・・。そして横を向きかけた瞬間・・・、モラッタ!!


ドスッ!!!


次の瞬間、手応えに浸る間も無く、クエは凄いパワーで岩下へ突っ込んで行く!!押し棒はたった1回の衝撃で直角に曲がってしまったが、チョッキはどうやら貫通している様子だ!!もともと柔らかいカーボンのシャフトを必要以上に撓らせ、クエの突っ込みを交わした直後、シャフト先端部からライン、そして強引に魚を引き寄せ、両鰓をガッチリと掴んで急浮上!!

と、獲れた…。クエが獲れたぞぉーーーー!!!


最高だ。。。


・・・。(感無量)


海面にてエラを切り、最寄りの磯場にて脊椎を切断。その後丁寧にストリンガーを2つも通し、改めてこの数分間の出来事を思い起こす・・・。超気持ち良い。。。

今日はまだまだドラマがある!何故かそう予感したため、その後も再び同じ根を目指す事に。しかし緊張の糸が解けたせいか、数分後にはいきなり波酔いにて海中嘔吐を4連発。なんとかその後も30分程粘ってみたが、結局捕獲対象魚には在り付くことが出来ず。

10時過ぎ、何度も何度も腰にぶら下がった茶色の斑模様を見ながら、1本目を後にしました。


■ 2本目(明太子スパゲッティーポイント)

車を30分程走らせ、明太子SPへ。夏の訪れと共に魚影が急上昇するこのポイントは、砂地、浅い磯場、沖の沈み根と、一通りの条件が揃ったオールマイティーに楽しめるポイント。今日は夏休みということもあり、家族連れの海水浴(磯遊び)客が多数遊んでいたため、砂地と浅い磯場は素通りし、沖合いの沈み根だけを探ることにした。

12時30分、突行開始。

透明度は1本目より若干高め。波も穏やかで、漁を遮る要素は何も無かった。
15分程で沖の沈み根付近に到着。根のトップは水深2mと浅く、そこから一気に下るとボトムは14〜5m。根の上層部にできた岩陰には、中型のクロダイが10匹程度群れており、その回りにはメジナやスズメダイの群れ、稀にカサゴやサンバソウが顔を見せる。海底まで潜行すると、視界に広がるのは上層部とは全く違う世界。パッと見るだけでイシダイ(30〜50cm)の縞模様は30匹近く群れており、夏場限定で現れるコロダイの群れや、頭でっかちなコブダイが、局所的な魚影の濃さを感じさせる。この景色、見ているだけでも嬉しくなるね。

しかし濃い魚影とは裏腹に、魚の反応はイマイチ宜しくなかった。射程圏内まで寄ってくるのは40cmまでのイシダイ、イシガキダイばかりで、その奥に見え隠れする50cmクラスはなかなか寄り付かず。何度か空潜りと寄せを繰り返した後、50cm強のイシダイを1匹穴の中に追い込んだが、不運にも反対側の抜け穴からスルリと逃げらてしまう。ツイてねぇ・・・。
ところが諦めて視線を横に逸らすと・・・、居たんです、クエが!!サイズは50cm程度。大きな岩の割れ目から体を半分出して、不思議そうにこちらを凝視。ヤス先との距離は約2m。相変わらず真正面からでは撃ち難いが、射程圏内まではあと僅かだ!

「うわっ、クエ2匹目!!獲れたらどうしよう(汗)!?」

いやいや、心配ご無用でした。あっさりと岩陰に逃げ込まれ、それ以降はクエの姿を拝むことは出来ず・・・。

結局時間と共に濁りが出始め、海底付近の魚影も若干薄めに。何か1匹だけ獲って上がろうと思い、コロダイorイシダイかを悩んだが、去年ここで獲ったコロダイが非常に美味かった事を思い出し、軍配はコロダイに上がった。特に大きい個体を狙った訳ではないが、一応自己記録となる57cmをゲット!獲った直後に70cm弱のコロダイが「オレも突かなくていいのか?」と寄ってきたが、それは次回のお楽しみということで。

■ 本日の総括

クエを獲って、皮肉にも改めて解かったこと・・・。
『今のオレは、まだクエを狙って獲れる程のスキルを持っていない。』
運も実力のうち?しかし毎回都合よく“運”が出せる訳ではない。憧れの魚は獲れたけど、スキルの上底はまだまだ見えてきませんね。魚突き3年生、ちょっと背伸びしてみました。


場所 島根県某所
『本日の突果』
天候 晴れ
海況 弱風 波1.5→1.0m
小潮 干潮 10:00
透明度 5〜8m
潜水時間 7:30〜14:15
最大水深 15.8m(25.6℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛 
フィン エスカペ
突果 クエ 56.5cm(初突果)
コロダイ 57cm
(自己記録)

我が家の食卓・初日
刺身 カマの塩焼き 皮と胃袋の塩胡椒炒め
刺身は軟らかく上品で、クセが無い。しかしそれでいて旨みが十分に凝縮されている。カマの塩焼きは、魚というより“肉”に近かった。鰭周りの身は特に締まっており、滴る脂と薄めに塗した塩味が最高のハーモニーとなって口の中に広がる。胃袋に関しては“究極のおつまみ”の称号を与えたい。ゴリゴリ?甘い?旨み?もうワケわかんねぇ…。

我が家の食卓・2日目
真夏の鍋 最高の頬肉 目玉周りのゼラチン 厚めの唇
2日目は季節外れの鍋に。キジハタ鍋も美味いが、クエ鍋はそれ以上か!?コメントの付け様が無い美味さが、そこにはありました。なんて幸せなんでしょう…。しかし嫁が納豆とキムチを冷蔵庫から出した時は、マジでキレましたよ!オレの言い分も解るでしょ?

クエの頬肉を食べてみた…。
見てるだけでウットリ・・・。 いただきま〜す うっ、美味過ぎる…。 ノックアウト…。




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