釣行記


『男は根性』

突行日 2005.5.18


「海上では朝のうちから風が強く、次第に波が高くなるでしょう(by天気予報)」

前日までの穏やかな海が嘘のような海況予報。楽しみにしていた島根遠征だったのに、天候はオレに味方してくれなかった。波と風の向きを考慮しながら地図を凝視し、潜れそうな場所を探ってみたが、条件的にはどのポイントもそれほど変わりは無さそうだ。ならば打つ手は一つ。海が荒れる前に、少しでも早く潜るしかない!

■1本目(明太子スパゲッティーポイント)

朝3時前、目覚まし時計に起こされ一路日本海へ。さすがに道路は車も少なく、5時過ぎには現地へ到着。この日は海況だけでなく天候も不安定で、着替えの際にはすでに小雨がパラつき始めた。しかし心配された海況は今のところ問題はなさそうだ。

5時30分、ひと気の無い浜辺よりエントリーを開始する。

日の出時刻を過ぎているとはいえ雨雲の立ち込める空はまだ薄暗く、さらには春濁りの影響も手伝い、透明度は今一つ。青黒い海の中、枯れかかったホンダワラの林を抜け出した直後、不意に現れた大きなドチザメがいつも以上に気味悪く思えた。しかし、2ヶ月前には何も居なかったこの浅場にも、いつの間にか良型のメバルの群れやカサゴ達が帰って来ている。スズメダイや、小魚の稚魚も多く群がり、キジハタがひょっこり岩陰から顔を出すのも時間の問題のように感じた。

沖に向かって泳ぐこと15分。撃つべき魚に出会えぬまま、目的の沈み根に到着。このポイントで気になるのはやはりこの沈み根付近の魚影。海面から静かに様子を伺うと、水深2〜3mの根のトップ周囲には40cm前後のチヌが10匹程度、さらに目を凝らすと5〜6mの中層で、バカデカいコブダイのシルエットが数匹乱舞していた。
水深15m前後の根のボトムまで潜ると、濁りと曇り空のせいで光があまり届かず、視界はかなり不明瞭に。岩下を覗こうにも暗くてほとんど見えない。周囲に散在する岩に群がっているのはメバルとメジナ、コブダイくらいか。魚影は2週間前よりも幾分濃くなっているようだが、イシダイやハタ等のシルエットは確認できなかった。

何度かこの付近での潜行を繰り返すうち、いつの間にか風は強く、雨は本降りになっていた。時計を見るとまだ6時半。もちろん周りには誰もいない。この時間にこの天候、そしてこの海況での魚突き・・・、はっきり言って寂し過ぎる。モチベーションの降下と共に少しずつ波にも酔い始めたため、1本目は予定より早めのエキジットとした。

■2本目(ポイント・SA)

こんな状況で帰るわけには行かないだろ?・・・という事で、少し休憩を挟んだ後に2本目へ。

ここは一昨年から通い詰めて来た馴染みの深いポイント。まずはエントリーポイント付近にあるテトラ周辺を潜ってみたが、小魚ばかりで目ぼしい魚には出会えず。早々と見切りを付け、海岸伝いを泳ぎ目的のポイントを目指した。

目的の入り江には10分程で到着。ちょうど風裏に当たるため、波は比較的穏やかで、波酔いの心配は無さそうだ。しかしこちらもテトラ同様に小魚ばかりが目立ち、魚影もMAXには程遠い状況。コブダイ、メバル、カサゴ、メジナ、タカノハダイ、ハコフグ・・・。魚影の基本的な構成としてはこんな感じか。

なんとなく待っていても魚が現れそうにない雰囲気だったため、水深10m付近の岩下を徹底的に覗いて回ったが、稀に「おっ!」と思わせるのは大きなコブダイくらい。

そのまま30分近くが経過するも、状況は相変わらず。気分転換にオカズの確保でもしようかと、沈み根の中層付近でメバル狙いに変更し、まさに1匹目のメバルに照準を合わせた直後、海底付近に佇む黒いスレンダーなシルエットが目に付いた!

またドチザメか・・・?

いや、スズキだ!!

80cmは軽く超えてそうな魚体。すぐに照準をスズキに切り替え、ヤスを構えたままの態勢でスズキに近寄る。何となく逃げられそうな感じがしたが、わずかに生え残ったワカメが調度良い感じにブラインドになり、スムーズに射程圏内へ。それと同時に狙いを定め、スズキの脳天目掛けて真上からヤスを撃ち込んだ!

ザクッ…!

脳天を完璧に捕らえた会心の一撃・・・のように思えた。キルショットか?丸太のようなスズキはほとんど動かない。
息止めが限界に近かったため、魚には触れずにヤスを握りそのまま浮上。自己記録級の魚を捕獲できた喜びと、息止め限界の苦しさにより、妙な快感に包まれる数秒間。

ところが海面に到達する直前、なんと仕留めたはずのスズキが急に暴れだした!!「やばい!」焦って魚を掴もうとした次の瞬間、信じ難いことに頭に刺さっていたチョッキがポロリと抜け落ちる・・・。どうやら頭部の硬い部分にヒットしたため、チョッキが完全に刺さりきってなかったようだ。グッタリしていたのはキルショットでは無く、脳震盪を起こしていたのだろう。

こうなれば逃げられるのがお決まりのパターン。しかし傷を負ったスズキは猛ダッシュではなく、ゆっくりと沈むように深みへ逃げて行く・・・。相当なダメージを受けているのか?息を整える間もなく、祈るような気持ちでスズキの後を追って海底へ。一度は完全に視界から消えたが、根から少し離れた海底付近をローギアで走行するスズキを発見!真後ろから忍び寄り、2度目の射撃は斜め後方から後頭部目掛け、フルパワーで一撃!

KILL SHOT!

スズキ 93cm(自己記録)
2度撃ちしてまで偉そうなことは言えないが、手応えは完璧だった。それでもチョッキが貫通せず頭の中で止まっていたため、念のため海底で魚をキャッチ!スズキは今度こそピクリとも動かない。そのまま浮上し、ナイフでエラを抜きストリンガーへ。自己記録更新となる93cmのスズキ、無事捕獲完了です。

それから30分程はヤスを撃たないまま時間だけが経過。これといった魚は一向に姿を現さず。帰り際、岩の上でのんびり構えるアイナメを1匹捕獲し、帰路に就きました。

■ 3本目(サケガシラポイント)

前回の遠征結果を考慮し、イシダイ狙いで挑んだ3本目。肝心な時には外れる天気予報が、今日に限ってドンピシャリ。10時を過ぎ、雨は上がったものの風が予報どおりに強さを増し、岸壁近くでさえ白波立ち始めた。手持ちで運んだロングフィンが何度風に吹き飛ばされそうになったことか・・・。

11時、本日最後の海へ入る。

悪い海況とは裏腹に、透明度はいつもより若干高めの7〜8m。エントリー直後の砂地にてクロウシノシタを1枚捕獲し、まずは先々週イシダイ数匹と出会った東側のポイントを目指した。
この付近の水深は8〜10m。前回同様、大きな岩に身を隠し、近くにある小石で岩をゴリゴリとやってみる。ゴリゴリ・・・。・・・。ふぅ。ポイントをずらしてもう一度・・・。またポイントをずらしてもう一度・・・、もう一度・・・。何度繰り返しても一向に姿を現さない縞々模様の魚達。前回のデータは一体何だったのか?

突行開始からはすでに1時間近くが経過。「お前、早く帰れよ」と言わんばかりに波も高くなってきた。しかしオレは負けんぞ。絶対に1匹獲ってやる!ここまで来ると簡単に引き返す訳にもいかず、半ば意地になり、崖伝いに奥へ奥へと進んで行く。しばらくすると何回目かの潜行中に大きな沈み根が目に留まった。

それはかなり大きな根だった。海面からではほとんど見えないが、ボトムの水深は15m程度と許容範囲内の深さ。最初の潜行後、根の中腹を少し回りかけた所でいきなり信じられない光景が目に飛び込んできた!大きな岩と岩の間に出来た深い谷間に10〜15匹のイシダイが井戸端会議を・・・!?しかも驚くことに50〜60cmクラスがゴロゴロと。こんな光景、見たことが無い!完全な老成魚、縞々のハッキリした50cmクラス・・・。途端にオレの心臓が大きく高鳴りだす。

「やばい、このままじゃ魚突きにならねぇ!!」

ヤツらの前に姿を見せないよう、反転しながら静かに浮上。呼吸はすぐに整ったが、心拍が落ち着かない!焦るな、焦るな・・・。そう自分に言い聞かせ、数十秒後、再び潜行を試みる。
残念ながら大きなイシダイの姿はすでに見当たらなかった。残っていたのは40〜50cm弱の個体だけ。いや、オレにはそれでも十分だ。根の中腹にある岩陰に身を隠し、ここで幾度か寄せを決行。40cm弱の個体はすぐに反応し、忙しく射程圏内を行き来するのだが、50cmクラスはなかなか射程に入ってこない。見えているだけにじれったいが、その分妥協をする気にもなれない。しかし潜行と浮上を何度も繰り返すうちに、徐々に大きな個体は姿を消していった・・・。

一体何処へ行ったのか?まさかこの根のどこかに大きなイシダイのアジトがあるのでは?そう考え、残ったイシダイ達を置いて根周りの探索活動に時間を費やすことに。

約10分後、不意に出会った40cmクラスのイシダイがゆっくり逃げて行くのを遠目で追跡してみる。コイツらはきっと、穴の存在を知っているはず・・・。それから十数秒後、その予測どおりにヤツは横方向に大きく開いた岩の亀裂に入って行った。さらに大きなイシダイの存在を期待して穴を覗くが、そこに居たのは先程の1匹だけ。ん〜、獲りますか・・・。とりあえず穴撃ちでキープしたのは39.5cmのイシダイ。

しかしその穴からイシダイを引っ張り出し、視野を大きく広げた時、この亀裂がさらに横方向へ、そして複雑に奥深くまで繋がっている事に気が付いた。穴からはサンバソウが数匹とタカノハダイが飛び出している。そして穴の入り口にズドーンと居座りこちらの様子を見ているのはなんとキジハタ!しかもかなりデカい!!目が合うと同時にキジハタは穴の奥へと入り込む。穴の奥は暗くて全く見えないが、根周りの状況から察するに横方向に抜け穴がありそうだ。

くそっ!逃げられたか?

しかし穴に逃げ込んだキジハタが、そう簡単に持ち場(縄張り)を離れるわけが無い!逃げ込んだ横穴の水深は12〜3m。ここからキジハタとオレとの根競べが始まった。ヤツは必ずこの付近に居る!粘りの魚突きは5回目の潜行で、再びチャンスを引き寄せる。ところがこの回に限り、ゴムを引きながらの潜行中、ヤスが複雑な岩肌に根掛かりし、情けなくも手ぶらの状態でキジハタと御対面。もちろん為す術も無く、キジハタは再び穴の奥へ。すげぇカッコ悪ぃ・・・。

海面での休息中、後悔しながら我に返ると、かなり波酔いしている自分に気付いた。その後も数回潜行を繰り返したが、キジハタの姿を見ることはできない。嘔吐寸前、嗚咽の回数も次第に多くなっていく。ひとまず最寄りの岸へと這い上がり、吐き気が収まるのを待つことに。しかし、待っている途中でも穴の中のキジハタが気になって気になって仕方が無い。傍から見れば惨めな姿だが、ヘロヘロになりながらも再び海へ。横穴を見失い少し焦ったが、2回目の潜行で再び発見。やばい。吐きそうだ。それでも集中力を切らさないように潜行を続ける。今必要なのはスキルではなく運と根性、それだけだ。粘れば必ず獲れる!

もう何回目の潜行だろうか・・・。そろそろ本気でフラフラだ。限界という言葉は使いたくなかったが、こんな状況では思わず弱気になってしまう。しかし、運は最後にオレに味方した。

ジャックナイフから10秒程で海底まで到達し、穴を覗くがやはり今回もキジハタの姿は無い。ふと気付けばチョッキが何かに引っ掛かり、押し棒から外れているじゃないか!?どうせキジハタが居ないのならこのまま浮上しても良かったが、念のために左手でチョッキをセットし、ゴムを引いてスタンバイ。何気なくもう一度横穴に目をやると・・・!?やっと出てきたぜ、キジハタ!!ゆっくりヤスを向けてロックオン。ヤス先はヤツの側頭部まで4〜50cm。チャンスはこの1回。慎重かつ手早く、ほぼ真横になった所でヤスを撃った!!

ブシュッ!!

その直後キジハタは猛烈に暴れ、穴の奥へと頭を突っ込もうと必死の抵抗を見せる!しかし、そうはさせるかと強引に穴から引っ張り出した!チョッキは完全に貫通している!エラから手を入れそのまま浮上。勝利を確信したときの達成感は過去に無いものだった。


「うぉぉ―――!!!見たかぁ〜!!!!オレは獲ったぞ〜〜〜!!」


キジハタ 51cm(自己記録)
マウスピースを口から外し、2度3度と絶叫。「見たか〜!」と叫んだのは自然に出た言葉。誰も見てはいないが、何かに勝ったような気がした。それはキジハタではなく、軟弱者の自分に対してだったのかもしれない。

‐本日の総括‐

男は根性。スキルも恐怖心も必要だが、海では誰も助けてくれない。自分が強くならなきゃいけない。自己記録を2つ更新できたことを抜きにしても、瀬戸内育ちの軟弱者にはとても良い突行内容だった。

それからもう一つ。朝早過ぎる突行は、とても寂しい。


場所 島根県某所
『本日の突果』
天候 雨のち曇り
海況 強風 波高1.0→2.0cm
若潮 満潮9:30
透明度 7〜8m
潜水時間 5:30〜13:00
最大水深 14.3m(16.9℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛 
フィン エスカペッツ
突果 キジハタ 1匹 51cm(自己記録)
スズキ 1匹 93cm(自己記録)
イシダイ 39.5cm アイナメ 34cm
クロウシノシタ 30cm
本日の食卓
写真左はキジハタの刺身。右はキジハタ鍋。
さすがにこのサイズとなると旨みが違う!刺身はもちろん、鍋は最高の一品です。いつもはゼラチン質をスルーしてしまうオレも、キジハタ鍋なら皮まで全部食べますよ♪旨みが凝縮された頬肉は、プルプルの皮と一緒にポン酢で食べると・・・マジやばぃ。





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