【安全管理】


 息を止めて海に潜り、魚を突く。

 たったそれだけの間に、我々の精神と身体は水深と水圧により大きなストレスを受けることになります。さらにはサメなど危険生物からの恐怖、頭上には船が通る危険性、高波や漂流、水中拘束、そして制限時間を超えた際に起こるブラックアウト・・・。

 これほど手軽に行える、魅力的で危険な趣味が他にあるでしょうか。

 さらに楽しめば楽しむほど技術は上達する一方で、様々な欲求を満たすために行動範囲は広まり、その危険性は次第に増していくと言っても過言ではありません。

 海で重大な事故が起こった場合、それは直接「死」を意味することがあります。陸上では助かるようなレベルの事故や体調の変化も、海では最悪の事態に繋がる可能性があることを常に念頭に置いておかねばなりません。「自分は死んでも良い。海に命を賭けている。」なんて思うのは結構ですが、ひとたび海で事故が起こればこれは自分だけの問題・責任ではなくなります。同行者が居る場合はその人達を巻き込む事故に発展する恐れもあります。事故が起こった時のあなたを待つ家族の気持ち、仲間の気持ち、この趣味を教えたものの気持ち、そして社会的責任・・・。何かが起こってからでは絶対に遅過ぎます。あなたの胸の内にある“自分は大丈夫”という自信に、一体何の根拠があるのでしょうか。

 是非一度、自分の取っている行動が正しいかどうか、自分自身に問い掛けてみてください。バディや同行者が居るのであれば、自分達のスタンスについて話し合ってみて下さい。仮に事故が起こった場合、約束の時間になっても上がってこなかった場合、サメに襲われた時、船との事故、ブラックアウト時、急な海況(潮流)の変化・・・、どんな対処をしますか?どんな対処が出来ますか?

 救命処置が出来ない同行者に対し、信頼関係を築くことができますか?
 海難救助の電話番号、知ってますか?    
海のもしもは118番。覚えれなければ119番でも。
 そもそもあなたが潜っているポイント、携帯電話の電波が入りますか? 
 一人で海に入る場合、誰かにその場所を告げていますか?

 「大物とのやり取りでブラックアウトしかけた。」
 「船に轢かれそうになった。」
 「潮に流されて酷い目に遭った。」

 それは武勇伝ではなく、ただの判断ミスです。笑って話せる凡ミスも、一歩間違えれば命取りとなるのが魚突きです。目先の目標やライバルとの競争の末に危ない橋を渡ろうとする気持ちは解らなくもないですが、そこまでして得たモノがあなたの人生にとってどれだけ大きなウェイトを占めるのか、よく考えてみて下さい。

 もちろんどれだけ注意を払っていても、少ない確立ながら事故は起こってしまいます。これは魚突きに限らず、アウトドアレジャー全般に言えることですが、どんな遊びでも、どれだけ注意を配っても、100%の安全保障はあり得ません。しかし、潜在的な危険を予測・把握し、回避する能力(知識と技術)を身に付けることで、事故の発生率は確実に下げることができます。いつか何処かで習ったはずの救命処置も、定期的に思い出すことで現場での実践に繋がるでしょう。そしてこれらのスキルを同行者と共有して、初めて安全管理ができていると言えるのではないでしょうか。

「海とは常に謙虚な姿勢で接しましょう。」
「安全第一で潜りましょう」

 このような言葉を並べるだけで、安全管理が出来ているような錯覚に陥るのは非常に危険です。海に対しては謙虚になり、臆病になった方が良いのは当たり前ですが、それ以前に正しい知識と技術を持って、海と接するように心掛けてください。海で自分を守れるのは、正しい知識と技術を持った自分だけです。





 ここでは魚突き(素潜り時)における安全管理『危険因子』『潜水障害』『救命処置』について掲載します。救命処置等に関しては最新のガイドラインに沿って掲載していますが、様々な事故が予想される現場においてはここに書かれている事が全て正しいとは限りません。各自が責任を持って海と向き合い、安全管理に努めて頂きたいと思います。


『危険因子』 『潜水障害』 『救命処置』



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【危険因子】 〜魚突きとは危険な漁法であることを認識する〜


 ひとたび海へ入れば様々な危険が予測される。以下に海での素潜り・魚突きにおける危険因子を挙げるが、これらを知る以前に知っておかなければならないことが、自分の身体の特徴と力量を正しく把握することである。この潮流の中でどれだけ安全な魚突きができるか?この海面状況で何時間魚突きが出来るか?身体のコンディションの変化にしても、これらと同様なことが言える。

 まず知っておきたいのが、自分の息苦しさのサインである。我々が素潜りで魚突きを行う以上、毎回の潜行時には必ず「息止め」という非日常的な行為を行うことになる。そして(後述するが)この息止めが何らかの事情で過度になった場合、意識障害(酸欠による失神)を引き起こす。この状態に陥る前に自分の身体に何が起こるのか、どういったサインを出すのかを知ることは非常に重要であり、海での潜行中に身体の異変を感じた時も、冷静に対応できるはずである。
 人それぞれ息苦しさのサインは違うので、まずは一度陸上で息止めをし、自分が苦しいと感じたことを『苦しい』という言葉以外の文句に置き換えてみる。例えば横隔膜の痙攣や、指先の痺れなど。それが分かるようになれば、いつもの時間や距離、深さを当てにせず、いつも自分のサインで浮上するように心掛ける。

 海で経験を積む事はもちろん、日常的なトレーニングや座学における技術的なスキルアップにより回避される事故も少なくないが、それらに伴う慢心は絶対にあってはならない。


@) 単独潜水と、バディシステム

 スクーバダイビングのようにバディを組んでいれば、ブラックアウト時の死亡率は格段に下がる。また、どちらかが常に海面に居る事により、船の往来に目を見張ることも出来る。魚突きにおいてはバディを組む事で行動が制限される場合も多いが、安全面においての効果は大きい。また、バディを組まずとも複数人で潜ることにより、これらの効果は僅かながらも期待できるが、溺者に対する迅速な対応までは期待できない。

※バディ、同行者、仲間内でのローカルルールを確立させること。

 海難事故における救助において、それは時間との戦いとなる。一刻を争う状況において、陸上での躊躇(ロスタイム)は最小限に留めたい。エキジット時刻に遅れた場合、どういった対処を取るか。海上から救助を要請する際、仲間に対してどのような信号を送るか(例:緊急時のみ両腕をクロスさせる。夕〜夜間は水中ライトを使用等)。入水前の装備品のチェック、ブラックアウトやサンバが疑われる場合の確認方法(例:I'm OKサイン)など。救助に向かうタイミング、海保に救助を要請するタイミングについて、迅速な対応が出来るように事前に話し合う必要がある。


A)地形・潮流・波・天候

 海に入る前には地形と海面状況・船の往来などを必ず確認し、少なくともエキジットポイントの安全性を確保した上で海に入ること。数時間にわたって魚突きを行う場合には、海況の移り変わりにも注意を払わなければならない。また、波のある場合には磯際や遠浅の岩礁地帯からのエントリー及びエキジットは避けるようにする。陸からの目線と海からの目線にはギャップがあるため、安易に飛び込んだりはしてはならない。
 離岸流などの局所的に早い流れに乗ってしまった場合は、流れに逆らわず、潮流に対して直角に泳いで流れから落ち着いて脱出すること。離岸流の幅は10m前後(大きいものではそれ以上)、流速は速いもので秒速2m(時速7.2km)程度である、流れに逆らって泳ぐのは不可能でも、我々のようにウェットスーツとフィンを着用している者であれば、落ち着いて対処すればそれほど問題は無い。

※ダウンカレント・・・潮流や海浜流等の横方向の流れが岩礁や根などの浅瀬に作用し、下方向の強い流れへと変わるもの。暖かい海水と冷たい海水がぶつかった場合に、比重の違いにより生じるもの(流れ)とがある。短時間で数十mも引き込まれる流れもあるため、ダウンカレントが生じやすい海域での素潜りは大変危険である。

※リーフカレント・・・珊瑚礁海域にて、海水の出入りが激しい外礁の縁(リーフギャップ)で発生する強い沖出しの流れ。汐の干満により発生するものと、波浪の打ち込みにより発生するものとがある。

 海況の変化による危険度の上昇については経験と技術で対処できることが多いが、これらの要素が重なった場合(海面状況の悪い中、速い潮流に流される等)には、熟練者においても冷静な判断が取れない状況に陥ることがあるため、相当な注意が必要である。もちろんこれはこの項だけではなく、全ての事象において複数の危険因子、潜水障害が重なる可能性があることを認識しておく必要がある。

 天候に関しては海面状況の変化を除けば危険因子となることは少ないが、夏場には高温(ウェットスーツ着用)による脱水症状に気を付け、落雷の恐れのある場合にはすぐに海から離れること。


B)水中拘束

 普通に魚突きをしている状態ではなかなか起こらない水中拘束だが、フロートラインが岩肌に引っ掛かったり、船のスクリューに巻き込まれたり、身体に付けている装備品などが水中の障害物に絡むことは十分あり得る。これらが起きた場合は落ち着いて拘束の対象物を放棄して対処すること。ダイバーズナイフで拘束の原因となるライン等を遮断することも一つの方法であるが、現実的には素潜りという限られた時間においてナイフでのみ切断可能な素材の水中拘束というのは滅多に起こるものではなく、何かあれば対象物を放棄するということを念頭に置いていた方が良い。そのためにもウェイトベルトを始め、身に付けている装備品は簡単な動作ですぐに外れるような構造にしておく。

 素潜りにおける水中拘束で、最大の原因となるのはフロートラインであると考えられる。浮力が高ければ船のスクリューに巻かれ易く、浮力が無ければ岩肌に掛かり易い。魚との引っ張り合いに耐える強度はもちろん必要であるが、安全面においては緊急時にナイフ等で比較的容易に切断できる素材である事が望ましい。


C)ブラックアウト・サンバ

 いわゆる、酸欠により失神した状態。早期に発見・救助され、適切な処置が施されればほとんどの場合で後遺症無く回復できるが、単独潜水ならば高率で死亡事故となる。また、ブラックアウトの手前の状態をLMC・意識混濁(通称:サンバ)と呼び、身体の自由を奪われ、痙攣を起こしたりすることもある。数秒で回復する事もあれば、そのままブラックアウトすることもある。

 限界寸前までの過度な息止めや、ハイパーベンチレーションは絶対にしないこと。浮上までは何が起こるか分からないため、常に少しの余裕を持って上がるように心掛ける。大型魚との中層での引っ張り合いや、根に入られた場合も同様に、潔く銛を手離す勇気も必要である。(この場合はフロートラインを介した駆け引きをすることで、その危険性を大幅に下げることが出来る。)

 ハイパーベンチレーションに関しては「自分で見極めれば・・・」「慣れれば・・・」などと掲載されているサイトや文献も存在するが、見極めるまでに死んだらどうする?慣れるまでに死んだらどうする?たとえそれらが可能であったとしても、危険な行為であることに変わりは無い。死にたくなければ絶対に行ってはならないし、安易に他人に勧めてもいけない。我々レジャーダイバーが行う
ハイパーベンチレーションとは、生死の境を趣味の域まで引き下げる理解し難い行為である。

□対処方法

 ブラックアウトは水面に浮上して数回の呼吸の間に起こることも多いため、浮上中に息止めが限界だと感じたり、ブラックアウト・サンバの徴候(手足の痺れ、頭のふらつき、酸欠状態)が感じられた場合は、水面に浮上すると同時にリカバリー呼吸を行うことで、ブラックアウトを防げることもある。また、もしブラックアウトになった際に肺への海水の浸入を防ぐため、深く潜る際には口からシュノーケルを外したり、溺水した際に仰向けにならないようにウェイトのバランスを腹側に移動させるという手段もあるが、いずれの方法も第三者による迅速な救助が無ければまず助からない。

※リカバリー呼吸・・・吸気をメインにした、息を吐ききらない呼吸。大きく口を開け、短時間で新鮮な空気を一気に取り込む。その後一瞬息を止め、半分くらい息を吐いたところで再び大きく口を開けて一気に空気を吸い込む。これを数回繰り返し、後に自然呼吸を行う。吸う時は目の前にあるソフトボールを一気に吸い込むくらいの感覚で行う。

※溺水の回避及び溺者の救助においては、浮力の確保が非常に重要である。
潜水中、浮上中、少しでも身体に異変を感じたら真っ先にウェイトを外すこと。そのためにウェイトベルトのバックルは一つの動作ですぐに外れる構造とし、ラバーベルト等を使用して常にバックルが一定の位置にあるようにしておく必要がある。何事も無ければ後で潜って回収すれば良い。フロート等浮力がある物が近くにあればしがみ付き、近くに人が居れば救助を要請する。魚との駆け引きにおけるイメトレと同様に、生きるためのイメトレも心掛けるべきである。

□ハイパーベンチレーションとブラックアウトについて

 ハイパーベンチレーションとは息止めをする前に呼気を強めた過換気(大きく速い深呼吸)を繰り返すことにより体内の二酸化炭素分圧を下げることをいう。一方で酸素分圧はそれほど上がらない。二酸化炭素分圧の増減は息苦しさを脳に伝える判断材料であり、この二酸化炭素分圧を意図的に下げる事により、息苦しさの限界が来る時間を遅らせることができる。
 一方で酸素分圧は体内の代謝において経時的に低下し、ある一定の濃度を下回ると脳が危険と判断し、自衛本能により脳の機能を自発的にシャットダウン(パソコンでいう、スリープの状態)してしまう。これがブラックアウトやサンバと言われている状態である。
 ブラックアウトは水圧変動の激しい浅い水深(10m以浅)で起こり易く、浅い水深で起こるブラックアウトのことをシャローウォーターブラックアウトと呼ぶ。さらに
シャローウォーターブラックアウトの90%は水面到達後に起こっており、ウェイトを捨てないことでで溺水する。

□潜水時にハイパーベンチレーションを行った場合

@ ハイパーベンチレーションにより二酸化炭素分圧は下がる。
A 潜行開始
B 水圧の影響を受け、酸素分圧が上がる。二酸化炭素分圧も上がるが、普段より低いので、息苦しさを感じない。
C 水中での動作により酸素分圧が少しずつ下がり、二酸化炭素分圧は徐々に上がっていく。
D 二酸化炭素分圧の上昇に伴い息苦しさが現れ、浮上を開始する。この時すでに過度な息止めとなっている場合があるが、酸素分圧が危険レベルまで達していなければ意識は鮮明である。
E 浮上とともに、水圧の影響で血中の酸素分圧が著しく低下していく。
F 水圧の変化の大きな浅い水深で酸素分圧が危険レベルに達し、意識を失う。


※このようにブラックアウトは初心者でも起こることがあるため、他人に魚突き・素潜りの楽しさを教える場合は、この趣味の持つ危険性も必ず伝えなければならない。また、ブラックアウトは水圧変動の大きな浅い水深で起こることが多いが、潜行中のボトム付近でも起こりうる。もちろん、過度な息止めをすれば陸上でも起こるため、訓練時においても注意すべき点である。

※ブラックアウトを起こしている者は、その苦しさから息を噴き出しながら浮上している場合が多いとされている。また、フィンキックをしながら正常に浮上しているようでも意識混濁を起こしている場合もあるため、少しでも異常を感じれば近くまで泳ぎ寄り、安全の確認をとること。


D)パッキングブラックアウト

 息を大きく吸い込み、肺を大きく膨らませた後に口のポンプを利用して過剰に肺へ空気を送り込むことをパッキング(カルパ)というが、こちらも度が過ぎれば肺が損傷するだけでなく、膨らみ過ぎた肺が血管を圧迫する事により血流が阻害され、脳に酸素が供給されなくなり、結果的にブラックアウトを引き起こす恐れがある。パッキングブラックアウトは上述されているC)ブラックアウトとは違い、血中の酸素分圧や二酸化炭素分圧の高低とは無関係に起こる。息苦しさやその徴候を感じることなく急に意識がなくなるため、陸上における息止めの練習(運転中や風呂場)においても注意が必要である。


E)健康状態(体調管理・アルコール)

 循環器・呼吸器系の異常がある者は素潜りに向いているとはいえない。高血圧・不整脈・冠状動脈疾患や喘息等がある場合は、医療機関で検査を受け、医師の診断のもとで行動をとるべきである。健常者であっても、疲労蓄積や睡眠不足には注意が必要となる。また、若年者に比べ高齢者は心肺機能(血圧変動)に異常をきたし易く、それだけでハイリスクグループに入ることを自覚しなければならない。
体調不良時はもちろん、日頃から運動不足な者、糖尿病、肥満、喫煙者にも同様のことが言える。
 潜水前のアルコール摂取は論外である。アルコールにより正常な判断が出来なくなれば、それだけで事故の発生率は格段に上がる。前夜の深酒にも注意が必要。アルコールは心臓に負担をかけるだけでなく、炎症部位を悪化させる危険性もあるため、耳の抜け具合やサイナスの通りにも悪影響を及ぼす。入水前には適度な水分補給を心掛け、ストレッチなど準備運動をしっかりと行う必要がある。これにより、海で起こる様々な潜水障害や波酔いなどを抑制させる効果が見込める。


F)精神状態(感情のコントロール)

 精神面においても極度の不安や緊張は潜水能力と判断力を著しく鈍らせるうえに、潜水時においてはブラックアウトやサンバの引き金にもなる。複数人で潜る場合は自分の潜行技術と経験では対処できないようなポイントへ入ることも考えられる。そういった場合には絶対に無理をせず、冷静に状況を見極めること。初心者が上級者のポイントで潜って得られるものは、事故に遭う危険性だけである。
 また、魚突き内外において、
我々を危険な領域へと導く諸悪の根源は、己の欲求以外に他ならない。いつまでも長くこの趣味を楽しむためにも、必ず自分の力量をわきまえ、100%の力を出し切るような魚突きはしない。他人は他人、自分は自分。今日獲れなかった魚は、明日獲れれば良い。性格的な事もあるが、自分の欲望や感情の抑制を常日頃から心掛ける。


G)危険生物

 サメ、エイ、クラゲ、ウミヘビ、オコゼ、カサゴ、ウツボ、クラゲの仲間、ヒョウモンダコ等。危険だと思われる生物には無闇に手を出さない事が原則。

□サメ

 サメに関しては潜行ポイントを考え、フロートを使用したりして対処するが、極論を言えば危険なサメが多く現れるような海域では潜るのを控える。


□エイ、オコゼ、カサゴの仲間(毒性の強い種)

 エイの尾、ミノカサゴやオニオコゼ、オニダルマオコゼ等の背鰭には毒がある。刺されると激しい痛みを生じ、全身状態といては吐き気、下痢、発汗、関節痛が見られ、アナフィラキシーショックで死亡することもある。棘が刺さっていればそれを取り除き、水で洗い流す。毒は熱で分解するため、40〜45℃の湯に30〜90分浸し、早めに医療機関を受診すること。
【その他、湯につけると効果的なもの】
オニヒトデ、ガンガゼ、ラッパウニ、シラヒゲウニなどのウニの類
ミノカサゴ、オニダルマオコゼ、ゴンズイ、エイ などの毒のある棘を持っている魚


□ウミヘビ

 海に棲む爬虫類のウミヘビは全て有毒であるが、○○ウミヘビと呼ばれる魚の仲間は無毒である。
 性格は大人しく、積極的に襲ってくることはないため、手を出さないようにする。口が小さく毒牙は奥にあるため、ウェットスーツの上から噛み付いても毒牙を皮膚に届かせることは難しい。そのうえ一回の毒の注入量が少なく、噛まれても中毒症状が出る人はそれほど多くない。症状は30〜90分程度で現れるため、2時間経っても症状が出なければ心配はない。とは言え毒性は非常に強く死亡例もあるので、噛まれたら傷口より上部を軽く縛り、毒を絞り出したり吸い出したりしながら、必ず医療機関を受診する。

□クラゲ(毒性の強い種)

 カツオノエボシ、アンドンクラゲ、アマクサクラゲ、キタカギノテクラゲ、アカクラゲなど数種類。
 毒クラゲには長い触手があり、触れると激しい痛みを生じ、ミミズ腫れや水泡(水脹れ)を作る。酷い時には全身のだるさ、しびれ感、筋肉の痙攣、ショックを起こし、嘔吐、呼吸困難から死亡することもある。
 皮膚についている触手を取り除くため、下手に擦らず、水で綺麗に洗い流す。ショックの徴候が現れたら、すぐに医療機関へ搬送する。ハブクラゲの触手には酢をかけると刺胞の破裂を防ぐことが出来るが、カツオノエボシの触手に酢をかけると刺胞が破裂してしまうため注意が必要。

□ヒョウモンダコ

 体の大きさが10〜20cmの青い輪状模様をしたタコで、フグ毒と同じ神経毒を持つ。咬創による痛みは少ないが、毒(テトロドトキシン)によって呼吸筋麻痺を起こし、呼吸停止に陥ることもある。咬まれた場合は傷口より上部を軽くしばり、毒を絞り出しながら医療機関を受診する。飲み込むと危険なので、毒は口で吸い出さない。



H)船の航路

 船の航路では潜らないこと。フロートを使用していても、船の操縦者がフロートに気付くという保障はどこにもない。已む無く通路を横切ったりする場合は、水面から顔を上げて注意を配り、手銛など目立つ物でアピールしながら出来るだけ素早く航路から離れるようにすること。

 潜行中に船のスクリュー音が聞こえてきた際には早急に浮上し、周囲の安全を確認すること。海面浮上時には手銛を立てて周囲に知らせることも有効である。この場合、トップの水深が浅い沈み根が近くにあれば、そこに向かって浮上すると船の航路から外れることが多い。同様にフロートを使用している場合は、フロートラインを頼りにフロートに向かって浮上すれば船と接触する確立は下がる。
 一般的には船のエンジン音は相当離れたところからでも伝わってくるが、(音の伝播を遮る)岬の先端や防波堤付近など、地形によっては突然現れる場合があるので注意が必要である。また小型のプレジャーボート等はかなり高速で移動するわりにはエンジン音が軽いため、潜水中にフードを着用していたり、水面が荒れている場合にはかなり接近しなければ聞こえないことも多い。水中に1分間以上潜っていると、潜行前には確認できなかったような距離から来たボートが急に現れて頭上を通過することもある。このようなリスクのある場所では潜らないことが賢明であるが、情報量に乏しい場合は視認性の高いフロート(オレンジ色・フラッグ付き)を用意しておく必要がある。漁業用の黄色いブイを半分に切ったような物では、波が少しでもあれば船舶からの確認は非常に難しい。


I)手銛の取り扱い

 当たり前の話だが、手銛の取り扱いには十分気を付けること(それでも事故は実際に起きている)。冗談でも人には向けない。陸上ではゴムを引かない。海中においてもレストタブの取り扱いには十分注意し、暴発を防ぐこと。
 また、エキジット時に多いのが波打ち際でのヤスの取り扱いによる怪我。荒れた海により体の自由を奪われた状態で手銛を持つことは非常に危険である。



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【潜水障害】 〜素潜りにおける主な潜水障害について〜


@)中耳腔スクイーズ

 耳抜きが上手く出来ない(耳管が閉じた)まま潜行することにより生じる中耳腔の痛み・締め付け。耳抜きを確実にするより他に対処法は無い。頭を上に向けた体勢をとれば耳抜きは若干しやすくなる。鼻をかんで鼻腔の通りを良くすることも有効。
⇔中耳腔リバースブロック
 浮上時に耳管が開かず、中耳腔の空気が膨張することにより生じる圧迫感・痛み。素潜りにおいては我慢して浮上するしかない。

※スクイーズ ・・・ 潜行時に水圧が掛かることにより生じる締め付け。
※リバースブロック ・・・ 浮上に際し、空気が膨張する事により生じる圧迫。


A)副鼻腔スクイーズ(サイナススクイーズ)

 副鼻腔と鼻腔の交通が、副鼻腔及び周囲の炎症等により遮断され、それにより潜行時にスクイーズを引き起こす。症状が軽い場合は眉間や鼻の奥に「キュルキュル・・・」という空気が抜ける音を感じながら潜行する事ができるが、やがて副鼻腔炎を発症(悪化)し、僅かな水深(1〜2m程度)においても耐え難い激痛や出血を伴うようになる。原則として耳抜き等の動作は効果が無いと言われているが、コツを掴めば副鼻腔内に強制的に空気を送ることは可能である。私の場合は鼻を摘み、普通の耳抜きのように耳に向かって空気を送るのではなく、思いっきり眉間に皺を寄せながら額に向かって空気を押し込むような形で耳抜きをすると少量ずつではあるがスクイーズは解消される。もちろん潜った後のリバースブロックが恐いために無茶は出来ないし、潜行に使う酸素の消費量やストレスも通常とは比にならないため、水中での滞在時間は極端に制限される。
 鼻風邪、アレルギー性鼻炎(蓄膿症)、副鼻腔炎の場合は要注意。アルコールは厳禁。
 ⇔副鼻腔リバースブロック


B)外リンパ瘻

 中耳腔のスクイーズやリバースブロック、強い耳抜き等が原因で起こる内耳窓の損傷。これによりリンパ液が中耳腔に漏出するため、激しい眩暈や痛み、聴覚障害を引き起こす。


C)鼓膜穿孔

 鼓膜が破れると中耳腔に海水が浸入し、中耳腔(及び内耳)が冷やされることで平衡感覚を司る器官が上手く機能しなくなり、激しい眩暈を引き起こす。この場合、中耳腔に侵入した海水が体温により温められることで症状は回復する。

※外リンパ瘻や鼓膜穿孔により潜水中に回転性の激しい眩暈が生じた際には、視界が定まらず方向感覚も分からなくなるため、すぐにウェイトを外して浮力を生かし、フロートラインや海面の明かりを頼りに落ち着いて海面を目指すこと。その際、浮力を少しでも確保するために、水中では息を吐かないようにする。海面到達後も陸上へ向かえないような状況であれば、救助を要請する。


D)中耳炎

 中耳腔スクイーズにより腔内に滲出液が溜まり、痛みや難聴を引き起こす。軽度であれば自然治癒するが、数日経っても軽快しない場合には医療機関への受診が必要。


E)その他のスクイーズ及びリバースブロック

 頻度の高いものとして、マスクブローを行わない事によるマスクスクイーズ。膝の裏側に発症しやすいウェットスーツと皮膚のスクイーズ。治療中の歯、口腔内の充填物周囲の空洞に生じるスクイーズ。潜行時に耳栓をすることで耳栓と鼓膜の間に密閉された空洞ができ、この空洞が水圧を受ける事により鼓膜を痛めるスクイーズがある。



F)減圧症

 一般的に素潜りでは減圧症は起こらないとされてきたが、繰り返す素潜りでも減圧症は生じるため、深い深度で魚突きをする場合は、水面休息時間を多く取るように心掛ける。
 関節の症状は痛みや違和感で、脳の症状は、知覚障害、運動障害、自律神経障害などがある。

※スクーバダイビングでは・・・ボンベの窒素が潜水中に血液内や体の中に溶け込み、浮上速度(減圧速度)が速ければそれらが気泡化してしまい、気泡化した窒素が体内に残ることで減圧症が起こる。窒素は潜水深度が深いほど溶け込みやすく、潜水時間が長いほど溶け込む量が多くなる。


G)肺過膨張症候群

 肺の気圧外傷(減圧性気胸)は、2次的に動脈ガス塞栓症を引き起こすことがあり、これらの病態を総じて肺過膨張症候群という。スクーバでは浮上中に呼吸を止めることが要因であり、素潜りでは浮上中の咳き込みや、強い耳抜き(バルサルバ)、過剰なパッキング(カルパ)等、胸腔内圧の上がる行為と浮上中の血圧上昇により危険度が増す。喘息や肺気腫と診断された人や、下気道炎(風邪)の最中には、肺の組織が弱くなっていることが考えられるので、決して無理をしてはいけない。

※動脈ガス塞栓症

 肺の気圧外傷後に発生する場合が多い。通常の自然気胸や外傷性気胸では、肺の空気が血管内に入ることはほとんどないが、肺の気圧外傷では肺から漏れた空気が膨張して行き場を失い、血管に進入し、脳まで運ばれて詰まってしまう場合がある。主な症状は脳の中枢神経症状で、意識障害・運動神経障害(片麻痺)・視力障害、言語障害、失語、自律神経障害、知覚障害などが現れる。重症なものは、浮上中または潜水終了直後に起こり、減圧性気胸に動脈ガス塞栓が合併すると30%以上が死亡する。


□潜水に伴う眩暈や難聴について

※画像はクリックすると拡大します。

音(の振動)は

 外耳道 → 鼓膜 → 耳小骨(増幅)→ 卵円窓から外リンパ液に伝わる。
 正円窓に振動が伝わる際に聞こえの神経(蝸牛)が感知し、脳へ伝える。
 中耳までは空間、内耳は液体。

バランスは

 内耳の青色に塗りつぶした部分にはリンパ液がある。
 体の動きを、三半規管内の外リンパ液の流れを卵形嚢と球形嚢などの平衡斑が感知する。

聴力障害は、

音の伝わる経路に障害があれば生じる。

 伝音難聴:外耳、中耳の障害。自分の声は聞こえる。
 ・・・ 耳垢、鼓膜穿孔、中耳炎など

感音難聴:内耳の障害。自分の声も聞こえない。
 ・・・ 老人性難聴、騒音性難聴、突発性難聴、ウイルス難聴など

めまい(回転性・末梢性)は

 外リンパ液の異常な動きや外リンパ液の循環障害で生じる。
 ・・・ メニエール病、良性発作性めまい、外リンパ瘻など

 自律神経障害や脳障害によるめまいは、フラフラ(浮・中枢性)する

潜水に伴うめまい、難聴

鼓膜穿孔:潜行時や浮上時に鼓室内の圧の変化に伴う鼓膜の破裂や亀裂。鼓室に海水が流入し内耳が冷えることで外リンパ液に対流が生じ、冷水刺激が無くなればめまいは消失する。鼓膜に大きな穴ができれば伝音難聴も生じる。

急性中耳炎:無理な耳抜きや浮き耳(リバースブロック)で中耳に炎症が生じることがあり耳の痛みを伴う。風邪や鼻炎があるときに、無理な耳抜きや鼻かみで中耳内に鼻汁が流入しても起こり得る。鼓室内の貯留液が多ければ伝音難聴も自覚する。

外リンパ瘻:潜行時や浮上時に鼓室内の圧の急激な変化で卵円窓や正円窓の破損、破裂することで生じる。めまいは一過性ではなく、出現時には安静にしていても外リンパ液の流出が続くので激しいめまいと吐き気が生じる。波に揺られることだけでも症状は強くなる。鼓膜穿孔のめまいとは強さも持続時間も厳しい上に方向が定まらないのでエキジットが困難になる可能性が高い。

他のめまいや難聴

メニエール病:片外リンパ液の循環(排液)障害で、回転性のめまいと患側の耳鳴りや耳が詰った感じ。低音部の聴力低下を伴う。

良性発作性頭位めまい:内で耳石が剥がれ、体動時に前庭神経に触れることでめまいが生じる。サッカーの〇〇選手がなったことで有名に、女性に多く、カルシウム低下が要因の1つ。

前庭神経炎:ウイルスが前庭神経のみに感染し、体位に関係なく激しいめまい。風邪の後に生じることが多い。

突発性難聴:ウイルスや内耳の循環障害で生じ、高度の難聴が生じる。重症ではめまいを合併することもある。


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【救命処置】 〜常に冷静で迅速な対応を心掛ける〜


「救命処置なんて出来るわけない。」「そんなのする気はさらさら無いよ。」

それでも結構です。僕だって出来ればしたくないですよ。

でも、当サイトの他のページを読む暇があるのなら、一度でいいので最後まで目を通して下さい。

あなたが現場で事態に直面した時、そして本当に助けたい誰かが居た時、正義感や使命感だけで命が救えるとは限りません。例えば溺者を海から引き上げ、救急車を呼んだとして、何分で現場に着くと思いますか?救急車の到着は、全国平均で6分以上かかると言われています。現場が海沿いで道が細く、入り組んでいれば10分以上かかると考えるのが妥当でしょう。その間、何もせずに手をこまねいているだけでは助かる命も助かりません。

救命処置を知ることは、やる・やらない以前の問題です。行動に移せるかどうかはその次の段階です。

ここまで書いても話が長くて読むのが面倒だという人は、
事故に遭遇した場合には一刻も早く、出来るだけ多くの救助を要請して下さい。


【救助する際の注意事項】

水上安全法(日本赤十字社)によれば、一般的に救助を行う上で必要とされる泳力は、

 ■クロール   500m以上
 ■平泳ぎ    500m以上
 ■潜行      25m以上
 ■立ち泳ぎ    5分以上

とされている。あくまでマニュアル上の数字であるため、これに固執するのはナンセンスであるが、ウェットスーツを着用し、フィン、マスク、シュノーケルを装備していれば、ほとんどのスピアフィッシャーマンはこの基準を満たすはずである。しかし、極度の疲労などにより体調が優れなかったり、極端に海況が悪い場合などは自分の力量を弁えるべきであることは言うまでも無い。救助に向かう正義感や使命感も必要であるが、救助者による二次災害を防ぐため、いかなる場合においても現状を見極める冷静な判断力が求められる。

@ パニックにならず、最後まで落ち着いて行動する。知人の変貌した姿や、痙攣する様を見て平静を保つのはは難しいが、慌てず自分の出来ることを実行すること。
A 自分と溺者のウェイト、その他救助をするにあたって不要となる装備品はすぐに放棄すること。溺者を陸まで引き上げるのも相当な重労働となる。1分1秒を争う事態。いかなる物も命には代えられない。
B 必ず自分の安全を確保した上で行動すること。自分にとってリスクが非常に高い or 出来もしないことを続けるくらいなら、一刻も早く救助を要請する。
C 海で溺れて救助をされた者は、蘇生後の状態に関わらず早急に医療機関へ受診すること。救助され、意識が戻った数時間後に肺炎や肺水腫等を発症し、呼吸状態が悪化する場合もある。


@)溺者がブラックアウト直後の場合

 ブラックアウトとは、脳が危機的な状況であると判断して自発的に機能(酸素消費)を抑えている状態であるため、外部からの強い刺激(大声で叫んだり、強く揺すったり、叩いたり)を与えることはかえって逆効果となる。素早く海面へと引き上げた後は、意識回復を促すために軽く身体を揺すったり、声掛けを行いながら優しく接する。(軽い意識混濁の場合は、これだけで回復できる。)意識が無い場合は舌根沈下を防ぐため、シュノーケルを外し、下顎を挙上させて気道の確保を行い、回復を待つ。海況が良ければマスクは外して良いが、波が顔に掛かるような状況では気道への海水の侵入を防ぐ意味で、マスクは装着したままにしておく。


A)それでも反応が無い場合
A)ブラックアウトから時間が経過して発見した場合
A)その他何らかの原因で溺れて意識が無い場合


 海面にて脈拍と呼吸の有無を確認する。10秒間観察しても呼吸及び脈が感じられない(よく判らない)場合は、それらは無いものとして行動する。これらにより溺者に少しでも疑わしき異常が見られた場合は、周囲の釣り人等に大声で異常を知らせること。早急に救助を要請することは非常に重要である。


□呼吸停止(呼吸はしていないが、脈拍はある場合)

 呼吸をしていない場合は気道確保の状態で鼻を摘み、人工呼吸(口対口人工呼吸)を行う。人工呼吸はゆっくりと5回息を吹き込み、その後は10〜12回/分のペースで行う。その場で1分間の人工呼吸を行っても溺者の呼吸が回復しない場合は、人工呼吸を行いながら陸地を目指す。陸地までが遠い場合は、再度1分間の人工呼吸を行い、速やかに陸地へと移動する。

左図は水面での気道確保、下図は溺者の搬送方法の様子。(防衛省 自衛隊HPより引用)

※水上における気道確保・人工呼吸は技術と経験を要するため、始めから上手くいかない場合は迷わず早急に陸を目指すこと。下図の搬送方法はあくまで一例に過ぎない。その時の溺者の状況や、救助者の技術に応じて最善の策をとること。気道が確保されており、溺者の顔面が水面から出ていれば、どんな運び方でも良い。

※確認の困難さと時間のロスを省くため、溺者に対して最初の人工呼吸を行った後に自発呼吸の有無を確かめる必要はない


水上における人工呼吸:参考URL http://www.youtube.com/watch?v=_7ZATHviLcg


□心肺停止(脈拍が感じられない場合)

 水面での心臓マッサージ(以下・胸骨圧迫)は有効でないため、速やかに陸地を目指し、心配蘇生法を行う。


B)陸地に上がった後

□呼吸停止(正常な呼吸が出来ていない場合)

 溺者から離れず、毎分10〜12回のペースで人工呼吸を続ける。

陸上における気道確保 胸郭が膨らむのを確認する。



□心停止(呼吸・脈拍が確認できない場合)

 人工呼吸を5回行った後、速やかに胸骨圧迫を行う。上手く人工呼吸が出来なかった場合や、溺者の口腔内の汚染(出血等)のため人工呼吸が躊躇われる場合はこれを省略し、すぐに胸骨圧迫を行い全身に血液を送る。


【胸骨圧迫の方法】


・胸骨圧迫は胸の真ん中(乳頭と乳頭を結ぶ線の真ん中)を、重ねた両手で「強く・速く・絶え間なく」圧迫する。


・肘を伸ばして手の付け根の部分に体重をかけ、溺者の胸が4〜5cm沈むほど強く圧迫する。

・1分間に100回の速いテンポで30回連続して絶え間なく圧迫し、圧迫と圧迫の間(圧迫を緩めるとき)は、胸がしっかりと戻るまで十分に圧迫を解除する。

・胸骨圧迫を30回行った後に、人工呼吸を2回行う。この胸骨圧迫と人工呼吸の組み合わせ(30:2のサイクル)を、救急隊に引き継ぐまで続けること。救助者が一人の場合で119番等の通報がまだの場合には、心配蘇生(30:2のサイクル)を5サイクル(約2分間)行ってから通報、救助の要請を行う。

※溺水の原因が心疾患にある場合にはAEDも有効であるため、AEDが近くにあれば積極的に活用する。体表面にパッド(電極)を張る場合は、溺者の胸の水分をタオルなどで拭き取ってから貼ること。


【胸骨圧迫の注意事項】

・胸骨圧迫は圧迫の力が弱く、回数が少ないと十分な血流は得られない。

・人工呼吸の前には深呼吸をせず、通常の呼吸量にする。空気の吹き込み過ぎは血液の循環を妨げる。1回の吹き込み時間は1秒とする。

・心配蘇生中は高率に胃内容物の逆流が起こる。気道の閉塞や肺への逆流を防ぐため、口を横に向けて口腔内の内容物を外に出す。

・低体温、低水温時は脳の防衛本能(生命維持)により蘇生率が上がるため、救助までに時間を要した場合でも諦めずに蘇生を続ける。

 心拍・呼吸が回復した場合は、回復体位を取り救助を待つ。救助者は最後まで溺者から離れないようにすること。


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【終わりに】


 このコンテンツの作製に取り掛かる数週間前、私の友人が海で亡くなりました。彼とは海で出会い、打ち解け、すぐに冗談を言い合える仲となりました。その日の別れ際、「オレ達はなかなか気が合いそうだ。今度は酒の席で一緒に語らいたいね。それじゃ、また。」と笑顔で話せたのが最後の会話になるとは・・・。
 彼は私よりもまだ若く、活動的でありながらも非常に慎重な潜り方をするスピアマンだったと聞いています。そんな彼の海での事故は、大きな悲しみと衝撃を受けたと同時に「無茶をしなければ大丈夫」だと思っていた自分にとって、安全管理に対する考え方を根本的な部分から考え直さなければならない出来事にもなりました。息を止めて水中に身を潜めるという行為を行う以上、“死”という言葉は常に我々のすぐ傍にあるんだということを、この時初めて痛感させられました。

 海に潜る以上、安全なんて何処にも無い。

 甘過ぎた自分の考えを、今一度見直さなくてはいけない。

 そして何より、もう二度とこんな悲しい出来事は起こって欲しくない。

 そんな思いが、このページを作るきっかけとなりました。いくら趣味で公開しているだけのサイトとはいえ、多少なりしも医療の現場に携わる自分が、安全管理について一切触れずに「魚突き、サイコー♪」とwebで語り続けていたことに対して、今は少なからず恥ずかしい気持ちを持っています。魚突きは最高に楽しいという事実と同じくらい、伝えなくてはいけない事実があったということを・・・。

 故人の冥福を心から祈るとともに、このページを観覧した全てのスピアマンが今以上に安全管理に留意し、末永くこの趣味を楽しんでいただければなと思います。





主な参考文献
日本赤十字社 水上安全法講習教本
日本赤十字社 救急法基礎講習







2012年3月24日、広島市内に有志が集まり、安全管理と題した決起集会が開かれました。経験豊富なスピアマンを始め、県外からも多数の方に参加していただき、安全管理に関する一からを学ぶ大変良い機会となりました。このコンテンツの文章は、その決起集会に提出させて頂いた資料に、当日学んだ内容を加えて編集したものです。当日、医学的側面から安全管理に関する講義をして頂いたアカミズさん。貴重な体験談を聞かせて頂いたセニョール大将を始め、参加者の皆様。またこの資料を作る上で力添え頂いた新潟の友人ちゅらに、この場を借りて感謝いたします。


2012年4月10日
UNDER THE GREEN 管理人





2012年4月24日  一部改訂(潜水障害)
2013年4月4日  一部改訂(潜水に伴う眩暈と難聴について)





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