俺達のケビン

『俺たちのケビン2018』
〜レジェンドのレクイエム〜

ジュゴン委員長  聖地10年生

『史上初の3連覇』『レジェンド・オブ・ケビン』『KOC殿堂入り』

これら言葉にプレッシャーなど感じていない。なぜなら今の私は2年連続チャンプ。聖地の絶対君主。ヤマザキパン工場ベルトコンベア監視主任。スーパーマーケットBELLレジ担当主任。丸亀製麺天ぷらチーフ。私はこの世で羨まれる全ての場所へたどり着いたような存在だ。
『神が食物を作り 悪魔が調味料を作る』アイルランドの小説家はこう言った。神と悪魔の融合こそ料理であって、それは人の成せることでは無いというのが世界の常識だ。しかしその常識を根底から覆す、世界の創造主が年に一度だけ聖地に舞い降りる。そう、私は天の声を下々のケビナーに届けるシャーマン。もちろん今年のKOCのために準備してきた料理も天の声をカタチにしたもの、抽象からの具現、完璧な料理だ。私が歩んでいるその足跡の一歩、またその一歩が、疑いようもないレジェンドへの道しるべ。この道を行けばどうなるものか、え?レジェンドしかなくね?? アハハ、ですよね〜♪そんな感じ。

ガー ガー んガ〜 ・・・ チュンチュン?

カルガモとスズメのやかましい合唱で目が覚めた。おい貴様らKOCが鳥料理なら命はなかったぞ!まったく、私を誰だと思っているんだ。
自宅裏のザコどもを蹴散らしてチャンプの朝が始まる。昨夜から我が家に来ている下々のケビナー達は、我が家のトイレ前でモーニング・エチケットの隊列をなしている。今日の戦いに緊張しすぎて大腸破裂寸前なのであろう、可哀そうなことだ。「おい貴様ら、しっかり出しきっておけよ。」とチャンプらしく王者の気遣いをチラつかせておいた。

このところ天気図を見ながら海況を予測していたが、おそらく今年はケビン集合史上もっとも悪い海況になるであろうと一抹の不安が過っていた。秋の強い高気圧は風を持っているため、天気は良くとも時化るパターンが多からだ。日が高くなるにつれて北東風が強まり、東のポイントであればまともな魚突きが出来るのはおそらく朝イチの一瞬のみ。風裏のポイントを選ぶなら去年も潜った退屈な場所しか大人数では潜れない。当日までのケビナーの意見は、朝一勝負でも良いから東に入りたいということでまとまっていた。となれば朝一勝負だ。早々に準備をしてエントリーしなければならない。遅刻は絶対に許されない。さあ、大腸トラブルに見舞われし下々のケビナーよ、集合時間に間に合わないぞ!集合場所へ行くぞー!!!糞まみれになった汚いケビナーの尻を叩き、集合場所へと向かわせた。

集合場所には一年ぶりに顔を合わせるケビナーの面々。王と久しぶりに会ったケビナー達は神々しい姿にさっそくすり寄ってくる。下々のケビナ―がそれぞれの里で起きたこの一年の報告をする。チャンプへの年貢のこと、他国からの侵攻のこと、政治的な話は尽きない。王としてケビナー達の声に耳を傾けつつも、心の中ではそろそろ出発しないと時化て潜れなくなる、おい貴様ら!チャンプの波浪予報は絶対だ!焦れ!!という思いがあった。しかし、この時点で出発できない理由が一つあったのだ。ジンディーヌ・ジダンがフランスから到着していないのである!!?
 
 プルルルル…(電話)  

 ジン 「…ん、zzz…」
 ジュゴ「おい、集合時間だで!今どこだや?」
 ジン 「…んん?ああ…ムニャムニャ」
 ジン 「あああああああああああああああ!!!!急いで行く!!」
 ジュゴ「寝ボケて事故ったらいけんから気を付けて来いよ(←チャンプの温情)」
    (↓チャンプの本音)
    「(時化てくる東で潜りたいと最初に言ったのテメーだろ!何やってんだ!イラっ)」

 拝啓

天上界の皆様におかれましては益々ご健勝のことお慶び申し上げます。
おこがましいとは重々存じ上げてはおりますが先にご報告申し上げます。
先ほどご紹介いたしましたジン選手の遅刻により、わたくしモッチャン(元チャンプ)こと奈落めの2018KOC計画が全て狂いました。
敬具

ジンディーヌ・ジダン選手の遅刻時点で、当日の海況変化にはもう間に合わず、潜れないのでは?と思いましたが、やはりと言いましょうか、現地に到着するとすっかり海は荒れておりまして天上界の皆様の殆どが漁港内の幼魚とお戯れになるという運びとなりました。
海況計画を狂わされたわたくしは、もう必死でございまして、波高2mの日本海に飛び出し、水深15m付近の沖瀬を決め打ちしようと決心いたしました。わたくしはこの時まだ畏れ多くもチャンプと呼ばれ、天上界の皆様に崇められておりましたので、今となっては猛省しかございませんが、防波堤で一句詠じゃったりして飛び込んだわけでございます。

我こそはKOCチャンプよ
泊の海の荒き波風 心して吹け

本当に何を勘違いしちまったんでしょうね。
泊では老婆たちの黄土色の罵声が轟いたとか。その土臭い濁流から吐き出されるように飛び出したわたくしは、その身にまとう潤沢な脂肪から得られる高浮力だけを頼りに沖へ沖へと漕ぎ出しました。さて、お目当ての瀬に到着して様子見に潜ってみますと60センチクラスを筆頭にイシダイが20匹ほど乱舞しています。しかも反応良さそうな個体ばかりでして、寄せには十分応じる様子でございました。生意気にもイケルぞ…と思ってしまった次の瞬間、わたくしのからだは海中で大きな『への字』のように翻弄されました。慌てて海面に戻るとそこは、とても人が遊べるような世界ではありません。次々と大壁が倒れてくるような波、大きく上下に揺さぶられる体、海面から周囲が見渡せず自分がどこを泳いでいるのかも分からない…あまりにも荒廃した世界でした。今思えばここが奈落界だったのですね。私は自ら奈落の世界へ泳いで行ったのです。この波、はやく戻らなければ本当にマズイぞ…3本だけ潜りすぐに引き返そうと思いました。しかし海中へアプローチをかけようと体勢を整えるわたくしに大波は容赦なくラフプレーでぶつかってきます。シュノーケル内に次々と海水が入り込み息も整いません。また、わたくしのフロートは大波に翻弄されてラインがピンと張ったり緩んだりを繰り返しています。波の隙間を見て海中へ入れたとしても、寄せの体制に入った所で海面のフロートが不用意にラインを引っ張り身体が瀬から引きはがされてしまいます。当然イシダイの群れは驚いて急にナーバスになり、わたくしはこの状況を打開する術なく、命からがら漁港へ戻ったのでありました。

わたくしの愚かな勘違いにより冒頭で誇大報告をしました『天の声の料理』は、少なくとも50センチ級のイシダイが必要な料理でした。今、わたくしは見事に玉砕し、イワシ一匹持ち帰ることなく泊の磯際へ打ち上げられました。天上界の皆様が存分にお戯れになった漁港内には、わたくしの求める肉量の魚が居るはずもありません。切腹の覚悟は決まりました。武士の情けなど無用です。

この世で一番の苦しみを味わいながら奈落へ参り候。。。


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はい。ここまでは2018年に書いた内容です。
UTGでケビンレポートを楽しみにして頂いております全世界のケビンファンの皆様申し訳ございません。わたくしジュゴンこと第9回大会奈落が発案した『俺たちのケビン』レポート。創始様(み〜ちん)のケビンレポート作成負担を少しでも軽減しようと、KOC参加者目線の個人レポートを添付してはどうでしょう?とケビナー達に声がけしておきながら、私がレポート提出を怠たったまま2019年大会に突入するという傍若無人っぷり。
創始様の2018ケビンレポート発表が頓挫したのは、奈落の仕業でございます!とこの場をお借りして額に奈落の文字がアザとなって浮かぶまで土下座で謝罪いたします。ぺこり。ぺこり。ぺこりんちょ〜


時空を超えて2019年11月20日午後21時45分なう

うーん。すっかり希釈された忌々しい感情を呼び起こすのは難しいね。笑
断片的ではありますが、当時の記憶を綴りたいと思います。

エントリーフィッシュ無きまま奈落確定。
その覚悟はあったものの、3連続KOCリーチの2018大会でもあったので、ノーフィッシュで脱落はあまりにも虚しすぎる、ということでケビナー達が文殊の知恵を出したのです。その内容は以下。

・KOC本戦出場権争奪戦
 ノーフィッシュのケビナー同士が、ダルさんから頂いた瀬戸内の魚を使って勝負
 勝ったとしても本戦に出場できる権利しか得られない
 負ければ文句なしの奈落
3連続KOCになるためには、この本戦出場権争奪戦を制して、さらにその直後KOC本戦を戦い抜いて勝利するという二連続勝利が求められる

パっと見はノーフィッシュケビナーへの温情措置のように見えるんですが、KOCを知っている者なら二連続で戦うことの苦しさたるや想像に容易いことです。これは決して温情措置などではありません。むしろノーフィッシュの時点で切り捨てて欲しい…そんな気持ちでした。

この時ほど、『レジェンド』という言葉が重く煩わしいと感じたことはありません。

この時ほど、魚が獲れないことをジン君の遅刻のせいにして恨んだことはありません。笑

今思えばこの時点で既に、完全に気持ちが途切れていたんでしょうね。準備してきた料理には肉量が必要だったし。そもそも食材が確保できなかったことを人のせいにした時点で負けですね。準備計画してきた料理の、その計画自体が脆弱だった。それだけのことなのに。
セトダイの大きさでは元々計画している料理は出来ません。アドリブで適当な料理を作るしかない状況。うーん、適当で勝てるわけがない。もし勝ったとしても本戦で戦える料理ネタはもうねぇ…正に八方塞がり。もしこの時点でレジェンド誕生に一握の期待を寄せるケビナーが居たのならば心から謝りたいですね、自分、既にこの時点で負けっス。

それで適当に思いついたのがセトダイの『鳥皮魚座(ギョーザ)』

これはKOC創世記に一つの案として、イシダイを用いた練習料理で作っていたものの、ケビナートークの中で「ギョーザもありだよね〜」とひょっこり話題に出てきたので慌てて封印した料理でした。創世記を知る古狸のようなケビナーの舌を唸らせるほどの力は無い料理。騙すためには少しでも作品の見栄えを良くしなければ…。そういう気持ちもあって、ケビナーのお昼寝タイムに休憩もせず聖地周辺の野山に分け入り、自然の美しい装飾品を探し回りました。ちょうどモミジやイチョウが色付き、皿を彩るには最高の時期を迎えていました。そして前座戦の本番を迎えることになります。

奈落決定戦というか、本戦出場権争奪戦というか、この時の僕のモチベーションからすると消化試合というべきか。お相手はムルさん。料理は得意で美味い。そして料理の見た目にいつも都会の風を吹き込んでくるタイプ。味噌と醤油と煮干しと日本酒とミリンだけで育ったようなオイラには、来週の空くらいピンとこない料理を得意とする男なのですよ。

とにかく今の自分のやるべきことを淡々とやり抜こう…よーい始め!

ここでセトダイの鳥皮魚座のレシピを書いておきます。
 
@ キャベツとニラを粗みじん切りにして、チューブしょうが&チューブにんにく、ごま油(適量)、塩(適量)と合わせボウルの中で混ぜておく
A 三枚におろしたセトダイの中骨と腹骨をとり、皮付きのまま塩コショウを適量まぶす。熱したフライパンにごま油を注ぎ、中火でセトダイの片側だけ(皮側)に火を通す。火を通したセトダイをフライパンから取り出し、1cm弱のサイコロ状に刻む。
B Aを@のボウルに入れて混ぜ合わせたら、それを鳥皮で包む。
C Aのフライパンは洗わずにそのままBを入れて、鳥皮の表面がカリカリするまで火を通す。
D 皿に盛りつけて完成

うん、味は普通だ。想定内の味。聖地の草花を添えて見た目は良い感じに仕上がった。だけど、肉量的な問題とインパクトはまるでないんですよね。いわゆる特徴の無い既存の料理。普通に食べられる料理。自己採点でもそんな感じでした。
一方、ムルさんは流石というか、見た目もソースも都会っ子たちが好むフィッシュハンバーガーを完成させていました。ただ、負けたオイラが言うのもなんですが、これも普通に美味しいだけした。KOCを戦い抜く料理としては明らかにインパクト不足。それにフィッシュバーガーは魚に手を加えて料理するという意味での創意工夫はなく、メインの魚が普通にフライされただけである事実に、確かに美味しいけれどKOC料理としてはこちらも弱点ありだな、とういう印象を個人的に持っていました。
結果は周知の事実、書くまでも無くムルさんの圧勝でした。その後、ムルさんは本戦を駆け上がり見事優勝!KOC二連戦でチャンプとなれば諸手を上げて降参です。本当にスゲーことやっちゃったよこの人って感動しました。前哨戦は普通に美味かったとか言ってごめんなさい!!笑  おめでとうチャンプ!!!

さて一度覚悟は決めていたものの、やっぱり奈落になるのはなんだか凹みます。笑
あぁぁぁぁぁぁ奈落かぁ…ってね。奈落経験者であればきっとこの気持ちが分かるでしょう。今、この瞬間、自分の全てを否定されたような気持ちが!笑笑
でもね。よーーーーく考えてみると、KOCの奈落って本当はありがたいんです。わが身を振り返ってみれば、人のせいにした自分を蔑み、猛省して、また一から出直そう、そんな気持ちになれるんですよ。40歳過ぎてもそういう気持ちになれる場所って、ケビナー達のいる聖地にしかないんだよね。クッソ悔しいけど。笑

おしまい