突行記 2011

『第4回 日本海遠征』
〜 自意識過剰 〜
突行日 2011年 10月 12日

 引き上げるのに苦労するような大きな魚を突いた時、水中で魚を抱え込んで浮上するべきか、引っ張り合いながら海面へと向かうべきか。

 もちろん最良の答えはその時の魚やシチュエーション、スペックにより大きく左右されるわけだが、自分のイメージトレーニングでは常に前者を意識してきた。


  @    魚を突く

  A    引っ張られる

  B    引っ張られながらも耐える

  C    シャフトとラインを手繰り寄せる(or自分が寄って行く)

  D    抱え込む

  E    鰓の中に手を突っ込む

  F    魚の頭を上に向けて浮上する


 うん。完璧。この一連の動作が完璧に遂行できれば、獲れない魚なんてない。そしてこの一連の動作を完璧にこなす為には、長い息止め時間と強靭なフィジカルさえあれば良い。

 自分で言うのもなんだが、息止め時間と肉体的な強さに関しては人並み以上のスキルを持っている自信がある。


 ただ、自分は世間を知らなさ過ぎた。


 世の中は広い。


 そして海はもっと広い。


 今日はそんなお話し。



一本目 ポイント・MP


 秋本番の日本海に向けて、久々のツーリングダイブ。

 早朝よりバイクに跨り、向かった先は新規開拓ポイント・MP。様々な理由による場荒れや漁業関係者との兼ね合い等により、最近は気兼ねなく潜れるポイントが減ってきている印象を受けていたため、自分だけのポイント(現実的には厳しいが)を一つ持っていたいという想いから、次に単独突行をする際には今後のためにもポイント開拓をしようと決めていた次第。ここのところコンスタントに遠征が出来る状況にないため、久しぶりに日本海へ行けたのにポイントが死んでいた…、なんてのは悲し過ぎますからね。

 …というわけで、エリア的には少なくとも自分の知り得る限り、この界隈で活動している人は居ないような地域を選んだ。そこから近隣の釣り情報や航空地図を見てある程度の目星を付け、尚且つ小回りの利くバイクの機動力を活かせるような場所を現地にてチョイス。車の停められない狭いスペースに駐輪し、道具を担いで山道をしばらく歩くと、目の前には想像以上に魚臭さの漂う海が広がった。


「ここ、なかなか凄そうやなぁ…。」


 午前10時30分 準備も早々に、エントリーを開始する。


 海況はベタ凪。透明度は5m〜8m前後。アンドンクラゲがウジャウジャと沸いている波打ち際を一気に泳ぎ抜けると、いきなり水深2m程度の浅瀬にメーター近いスズキがドドーンと数匹戯れていた。あまりの大きさに一瞬身構えてしまったが、今日のターゲットはスズキではないため、見て楽しむだけに留めて沖合いを目指すことに。

 思えば約2年ぶりの新地開拓。全くの新しいポイント、何の情報も無い地域、そして時間に縛られない単独突行。もう本当に楽しかった。目の前に沈み根が現れるたびにワクワクした。こんなフレッシュな気持ちで魚突きができたのは、かれこれ何年振りだろうか…。もはや記憶に無いくらい。

 残念ながら透明度はそれほど良くはなかったが、水深はMAXでも20m前後だったため、初めてのポイントでも比較的多くの情報を仕入れることができた。非常に地形がダイナミックな沈み根のエリアもあれば、すぐ傍には殺伐としたフラットな過疎地が延々と続いていたり…。また同じ様な潮当たりの根・形状にも関わらず、魚影がピンポイントで濃かったり、逆に小魚すら1匹も居なかったり…。

 なかなか掴み所の無いポイントではあったが、これまで積んで来た経験を覆された部分も多くあり、いろいろと勉強にもなった一日。

 ちなみにこの日最初のターゲットに出会ったのは、開始から30分程度が経過した頃だった。沖合いに位置する沈み根の回りを、番いで泳ぐ2匹のマダイを確認する。サイズは何れも50cmクラス。水深は7m程度。何のアクションも起さずヤスを構えて待っていると、比較的スムーズな流れで射程圏内を横切ろうとしたため、その横っ面を目掛けてヤスを撃ち放った。



にょろ…。




 …っと飛び出る力無い手銛。ヤスゴムをシャフトに巻きながら引いてしまったためにそれが無駄な抵抗となり、初速を失ったヤスは無情にも超低速でマダイの後方を緩やかに通過…。2匹のマダイは少しだけ驚き、微妙な速度で視界の外へ。

 オープニングから凡ミス…。悪い癖が出ちゃったね。。。

 サイズもサイズだけにそれほど気落ちすることなく次の根へと向かったが、最初の1時間はほとんどまともな魚に出会えなかった。決して海底環境や潮当たりが悪いわけでもないのに、何故かイシダイやキジハタの姿は皆無。魚が居そうで、居ない。稀にマダイのシルエットが遠めにチラっと見えたりもしたが、その他にはスズメダイやコッパグレがほんの少しだけ群れを成している程度。この環境、そしてこの雰囲気で魚影が薄い理由が全く理解出来ず、非常にもどかしい時間を過ごした。


 しかし、そこから500mほど潮流を逆らって泳いだところで、状況はガラリと一変する。


 水深15m程度のボトムから聳え立つ、大きな瀬と根の集合地帯に行き着いた。海面からでも小魚の魚影が際立って見えたため、試しに潜ってみると、少数ながらも良型のイシダイが群れを成しており、中層を泳ぐマダイ(50cmクラス)の姿も確認できる。キジハタ等、底物の気配はこの時点では分からなかったが、明らかに期待値の高いエリアであることは一目瞭然だった。

 まずは根の中腹にある棚まで潜り、魚影等の様子を観察することに。それから一旦浮上し、根回りの状況や、それらを取り巻く周囲の環境を探ってみた。そして最後に海底付近の捜索を…。相変わらずキジハタの好みそうなスペースは点在しているものの、何故かここでもキジハタは姿を現さず。

「とりあえずイシダイでも間引いて次の根を探すか…。」

 と、海底付近の捜索を諦めて一旦浮上をし掛けたその時、単発ではあるが自分より上層を悠々と泳ぐ、80cmクラスのマダイのシルエットを捉える事が出来た。


 予定変更!

 ターゲット、真鯛!


 すぐにヤスゴムを引きながら真鯛の泳ぐ水深へと浮上し、近くの根の中腹に身を潜めた。…が、マダイは一向に自分に興味を示す気配が無い。ゴリゴリやっても、海草を撒き散らしても、全く見向きもせず。逃げるわけでもなく寄るわけでもなく、射程エリアの少し外側をいつまでもフラフラと泳いでいる状態。

 このままでは埒が明かないと判断し、かなりリスキーではあるが、尾行からのワンダッシュアタックに作戦を変更することにした。ゆっくりとした動作で警戒心を煽らないようにマダイの背後へ回り込み、ジワリジワリと距離を詰め、進行方向にある根を避けるためにマダイが進路を変える(横を向く)タイミングを見計らい、静かにワンダッシュをして射程ギリギリの距離まで侵入。そして勢いそのままにマダイの頚部付近目掛け、半ばダメ元でヤスを撃ち放った!


「うりゃぁぁぁ!!届けぇぇぇぇ!!!」


「おぉっ!当たった!ラッキー♪」


 …が、その次の瞬間、撃たれたマダイは海底へ向かって猛然と走り出す。

 良く見れば、頭部後方を狙ったチョッキは尾鰭の付け根に突き刺さり、辛うじて引っ掛かっているかのような状態。身切れの心配はもちろんのこと、こんな所を撃ってしまえば、魚のパワーを制御し難いのも当たり前の話である。

 息止め時間にも限界があったため、オレはヤスゴムを引っ張りながら海面への浮上を試みた。…が、握り締めたヤスゴムはビヨーーーーーンっと伸び切り、依然としてマダイは海底に向かって激しいファイトを続けている。


 頑張るみ〜ちん。

 踏ん張るマダイ。


 遠く感じる海面までの残り5m。このままでも何とか浮上できそうな感じはしたが、どうやらチョッキもしっかり効いているようだし、せっかくなのでイメトレ通りの取り込み方を試してみることにした。


  @    引っ張られる

  A   
少し勢いが落ちる

  B    手繰り寄せる

  C    抱きかかえる

  D    鰓をキープ

  E    海面に浮上


今シーズン、初真鯛!

 うん。完璧。このクラスの魚でも、イメージ通りの取り込みが出来る。フロートも要らない。ロングフィンも要らない。レストタブも要らない。手銛の改良も必要ない。


 今のままで十分でしょ。


 そう思った。


 海面にて、マダイの鰓を引き抜きながら、改めてそう思った。


 でも、それは間違っていた。


 考え方が、あまりにも浅はかだった。


 それから約1時間。新たな根を求めてさらに数百m潮上を目指して彷徨ったが、雰囲気の良さそうな根は一向に見当たらず、開始から2時間を目処に引き返すことに。

 衝撃的だったのは、ここから。

 エントリーポイントに帰る際、偶然通り掛かった沈み根に群がる小アジの大群を目にする。

 本日2度目の、魚群リーチ。

 根のトップは6〜7m。ボトムでも15m少々。幾つかの同じような根が四方に分かれて点在し、それらの中央には比較的広いスペースが開いている。

 とりあえず最寄りの根のトップに着底し、沈み根に囲まれて出来たスペースを見下ろしてみると、そこには小アジの群れが所狭しと詰まっており、10匹程度のヒラマサ(70cm級)が小アジの群れを遊ぶように追い掛け回していた。イシダイに関しては数匹の60cmオーバーを筆頭に、平均50cmクラスの群れが根と根の間で右往左往している。

「最後に良い場所を見れたなぁ…」と思った矢先に、1匹のヒラマサが不意に射程圏内へ飛び込んできた。少し焦り気味に撃ったヤスは胸鰭付近を深々と貫通し、シャフトは魚体を数十cmほど豪快に突き抜ける!暴れまくるヒラマサと、大きく開いていく傷口。ほんの一瞬でチョッキも効かずに魚体はすっぽ抜け、ヒラマサは狂ったように泳ぎながら遥か彼方へ…。しかし、すぐに次のヒラマサが射程圏内に現れたため、再びヤスを構え直そうと視線を下方に向けた時、海底付近に蠢くとんでもない魚体が視界に映り込む…!



 …!?



 クエ!?



 しかも、アザラシ級の太さ!



 …。



 んぉっ!



 今度は水族館級のクエ!



 …。




 そこからヒラマサの群れがどうなったとか、全然知らない。


 時折大型の銀ワサやクチグロが目の前をうろついていたが、それは全く関係無い。


 海底付近には70cmを超える超極大のヒゲダイが居たが、そんなのもどうでも良い。


 良型のキジハタも複数匹こちらを凝視していたが、もはやそれどころではない。





 帰り際に偶然行き着いた沈み根の集落は、初めて目にしたクエマンションだった。





場所 日本海某所
−突果写真−
天候 晴れ
海況 風弱く 波1.0m
 ―――
透明度 5〜8m
潜水時間 11:30〜15:30
最大水深 19.5m (23.4℃)
ヤス 3.5mチョッキ銛
フィン ワープフィン
突果 マダイ 78cm ×1匹
キジハタ 50cm前後×2匹




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