突行記 ’09

『第1回 日本海遠征』
〜 イシダイ70cmの壁 〜
突行日 2009年 4月 19日

 春のブルーミングというとてつもなく大きな障害を前に、手も足も出せず撃沈してしまった去年の同時期の日本海遠征。寒くて、海況も悪くて、透明度はヤス先すら見えなくて…。魚影も薄かったが、たとえ魚が居ても居なくても気付かなかっただろうし、おそらく気付いても獲れなかっただろう。さすがにあの時は「この時期の日本海なんてもう二度と行かねぇ…」と本気で思ったが、でもそんな考えって結局のところ有効期限が短いんですよね。一年も経てば嫌な思い出は浄化され、ほんの少しの良い情報により期待値だけはバカみたいに膨らんでいく。

「この時期の日本海で50cmオーバーのイシダイ?2〜3匹は楽にいけるだろ。」

 言葉には出さなかったが、内心はこんな感じかな。

 そんなこんなで向かった4月半ばの日本海。同行者は去年の4月に共に玉砕したサイモンさん。現地では島根素潜ラーのジュゴンさんとも合流予定。強気な思いと一抹の不安を抱えながらの道中ではあったが、今年は予め地元素潜ラーのジュゴンさんやイタさん、水君から「透明度や魚影、水温」等の前情報を頂いていたため、去年のような博打気分で臨んだわけではなく、ある程度の計算というか、突行に対するイメージはできていた。


■1本目 ポイント HN

 ポイントに到着したのは9時ちょうど。去年とは違い、予報どおりの瀬戸内級のベタ凪を確認し、まずはほっと一安心。天気も良く、風も無い。パッと見で沖合いに漁船が多いのは気になったが、潜る範囲では特に支障なく思われる。しばらくしてジュゴンさんがいつも通りのにこやか笑顔で登場。軽い雑談の後にポイント情報等を交わし、準備も早々に海へと向かった。

 透明度は思っていたよりも良く、7〜8mは抜けて見えた。若干浮遊物も多かったが、13mラインの海底のコントラスト(砂地と岩場の境)が、海面からでもボンヤリとわかるくらい。これだけ見えれば十分だ。潮当たりの良い沖合いに向かいながら軽めの空潜りを何度か繰り返してみたが、サイナスの通気性も耳の抜け具合も問題無い。あとは魚影云々ではなく、自分の行動次第である。

 しばらく沖へ泳ぎ出ると、東から西への緩やかな潮流を感じ始める。まだ水深はかなり浅いエリアだったが、何気なく潜った沈み根で、今年のファーストイシダイを確認することができた。サイズは55cmクラス。イシダイは警戒する素振りもなくフラフラと根周りを泳ぎ、そのままボトム付近(と言っても水深6〜7m)にある岩の割れ目へと姿を晦ませる。「2009年最初のイシダイはコイツで決まりかな?」と思いながら、ヤスゴムを握り締めて割れ目を覗くと、中には先程のイシダイの縞模様が…。しかし、割れ目の入り口付近の岩肌が歪に隆起しているため、魚の動きに合わせてスムーズに照準を合わせることが出来ない。下手な所に撃ち込んでは取り込みに苦労させられそうだったため、しばらく潜行と浮上を繰り返しながら確実にヤスを頭部に打ち込めるタイミングを伺ったが、10分近く経過したところでイシダイの姿は見えなくなってしまった。
 まだ開始早々ということもあり、潔く諦め、さらに沖合いに広がる漁場を目指すことに。

 最初にイシダイの群れに出会ったのは開始から30分が経過した頃。比較的潮の流れの良いポイントにて、大きな根と根の間の谷間になった場所でゴリ寄せをしていると、どこからともなく7〜8匹のイシダイの小さな群れが顔を見せる。サイズは40cm〜55cmまで。今年もイシダイ50cm以下はオールスルーと決め込んでいるため、確実に50cmを超えていそうな最大サイズに狙いを絞り、射程圏内に入ってくるのを待っていたが、射程に入る直前にその個体が奇形(尾鰭がほとんど無かった)であることに気付き、一気にテンションが下がってしまう。

 それからしばらくは40cm前後のイシダイを単発で数回見かける程度で、その他にも目ぼしい魚は現れず。常に回遊魚の動向も気にはしていたが、50cm程度のヒラマサ(ヤズ?)の群れ×100匹程度を遠目で一度チラ見しただけで、捕獲対象サイズは見ることすらできない。

 さらに沖合いへと移動し、水深15〜17mラインの何も無いフラットな海底でイシダイを寄せていると、何故かヒラメがヒラヒラとこちらに向かって泳いで来たので、浮上しながら至近距離から頭部を一突き。キルショットも綺麗に決まり、ヒラメ56cmを難無くストリンガーへと通す。

 その後、思い出したかのように、昨年までの実績のある根を一つずつ回ってみることにした。イシダイのテーブル、イシダイの沈み根、クエのトンネル、クエの岩下…。30分近くかけて全てのチェックポイントを回ってみたが、本命はおろか小魚の姿すら見えず。

 開始から早くも1時間が経過。ここまでヒラメを1匹キープしているとはいえ、メインターゲットであるイシダイの成果はゼロ。想像以上のフィールドを用意されたにも関わらず、突果がなかなか付いてこないもどかしい現状。しかし、何故か焦りは一切感じなかった。「獲ろうと思えばいつでも獲れる。」魚影は決して濃くはなく、チャンスらしいチャンスはほとんどなかったが、不思議とポジティブな状態を維持し続けられたことは、その後のやり取りの中で良い結果が残せた一つの要因かもしれない。

 結局過去の実績ポイント巡りが不発に終わったため、この日最も魚影の濃かった沈み根にもう一度戻ってみることにした…。…が、今度はなかなかその沈み根が見当たらない。しばらく空潜りを繰り返しながら周囲の様子を伺っていると、偶然にもなかなか雰囲気の良さそうなエリアに行き着いたため、息を整えて本気モードで潜ってみることに…。

 水深は16〜17m程度のほぼフラットな海底から、ポツンポツンと2つの小さな根(高さ3m程度)が隆起している。根と根の距離は6〜7m程度。その片方の根のトップに潜り、しばらく周囲の様子を伺っていると、もう片方の根の陰から20匹ほどのイシダイの群れがワラワラと姿を現した。サイズは50cmクラスを中心に、60cmクラスが数匹。さらにその中に一際大きな老成魚の姿も確認することが出来た。もちろんこの状況で狙うべきは、ボスクラスの老成魚のみ。
 すぐに根の陰に身を隠し、ゴリ寄せを開始する。イシダイの群れは全体的に良い反応を示したが、射程圏内まで寄って来るのは手前の50cmクラスのみで、お目当てのクチグロは少しずつ近寄っては来るものの、50cmクラスがターンする際に一緒に驚いてしまい、「中途半端に近寄っては一気に離れて…」の状態を繰り返す。さすがにこれだけの取り巻きの中でピンポイントにMAXサイズのみを狙うのはかなりの難を極めたが、オレにとってはこの状況こそがイシダイとのやり取りの中で最も楽しく、最も熱くなれる一時でもある。中ボスクラスの60cm級の個体も興味津々で寄っては来るが、この状況下では妥協する気にもなれず、ましてやそういった選択肢は頭の中には微塵も無い。

 息止めの限界と共にイシダイの群れが散ったタイミングを見計らい、根の陰から隠れるように一旦浮上を試みる。同じ様に潜ってのやり取りでは埒があかないと判断し、息を整えながら海面を移動…、今度はもう片方の根のトップに向かい、ヤスゴムを引きながら静かに潜行を開始した。

 根のトップに着底するなり海草を掻き分け、周囲の様子を探ってみる。幸運にもイシダイの群れは散っておらず、あの老成魚も良い感じにフラフラと群れの中で泳いでた。しかも群れとの距離は先程より若干近くなっており、地形的にも身体を隠しやすい有利な状況に…。
 軽く岩肌を擦り音を立ててみると、やはり手前に居た3〜4匹のイシダイがフラフラ〜っと近寄ってきた。しばらく微動だにせずその状況を静観していると、今度はそれらに連られるようにし、一足遅れてお目当てのクチグロも好反応を示す…!
「…(ニヤリ)。」
 スーッと近寄ってくる大きな黒い頭。迫り来る顔の幅からは、貫禄すら漂っている。そしてその厳つい頭はどんどんと大きくなり、ついには射程圏内へ…。思いっきり寄せて確実に頭部に撃ち込みたかったが、クチグロは予想していたよりもワンテンポ早いタイミングでターンを仕掛ける。
「んぅっ…!」
 正直ちょっと焦ったが、タイミングを合わせて放ったヤスは、クチグロの頚部を深々と捉えていた。次の瞬間、硬直時間ゼロで海底付近への強烈な突っ込みを見せるクチグロ。根のボトム付近にある割れ目に向かって一直線に泳いで行く様にも見えたが、そこをヤスゴムのテンションとフィンキックで力強く交わし、海底付近でのやり取りを何とか回避。引き込みが一段落付いたところで今度はシャフトをガッチリ掴み、主導権を得た後はそのまま抱きかかえることなく海面へと一気に浮上した。

 ふぅ…。

 海面にて鰓を抜き取り、手尺でサイズを確認する…。ん…。60cm後半は確実だが、70cmは微妙なところか。ま、サイズは何センチであったとしても、思い通りの駆け引きで思い通りの魚を獲れたことに満足し、気持ち良く1本目の突行を終えることとなった。

 エキジット後、ジュゴンさんにメジャーを借り、イシダイの採寸に取り掛かる…。

イシダイ70cmの壁、撃破!!
 んぉぉぉっ!!

 70…ある!?

 いや、、、微妙。

 ある?

 ん〜、無い?

 いや、ある!

 ギリあるっしょ!

 あるね!!

 ある!!!
 
 おっしゃ〜!!!!
 
 計測の結果は大台ジャストの70.0cm!
 これまでの自己記録を3年ぶりに1cm更新することに成功!
 たかが1cm…。されど1cm…。

 でもこの1cm、オレの中ですっげー意味のある大きな1cmなんです。

 ホント、最高の気分でした。


■2本目 ポイント OH

 強風のため海面は白波立っていたが、船も釣り人も少なくとても良い感じ。イシダイに関しては記録サイズ以外はオールスルーを決め込んでいたため、2本目はほぼキジハタ狙いの突行となる。

 結論から言えば、時期的にも少し早かったのかもしれない。
 低水温により活性が低くなっているのは十分予測していたため、高実績の割れ目や岩下等をピンポイントで覗いて回ったのだが、1時間強の捜索中にキジハタの姿は1匹も確認できず。いかに水温が低いとはいえ、すでに4月も半ば過ぎ。虱潰しに探せば1匹くらいは獲れるだろうと思っていただけに多少残念ではあったが、経験としては十分プラスになったといえるだろう。
 また全体的な魚影としては、決して薄くなく思えた。イシダイに関しては大きな群れには一度も合わなかったが、イシダイの好みそうなポイントでは単発的にその姿を確認することができ、60cmオーバーのクチグロを筆頭に、何匹かの良型イシダイも射程に入れることができた。その他の魚種ではヒラスズキが非常に多かったこと。サイズは50cmクラスがほとんどだったが、比較的浅い根のトップを占拠するように群れていたのが印象的。中には80cmクラスの大型も混じっていたが、微妙な距離を取って周回するだけで、射程圏内に入れることはできなかった。 

 結局何も獲らないまま、2時間ジャストでエキジット。突果としては不発に終わったが、思い描いていた課題の答えを自分なりに探すことはできた。その答えが正しいかどうかはなんてことは、大して意味は無い。目的を持って海と接したことに意味がある。まだまだシーズンはこれから。今年もこの日本海でどんな夢が見れるのか?どれだけ美味い酒が飲めるのか?ん〜。今からそう考えただけでワクワクしますよ。



場所 日本海某所
−突果写真−
天候 晴れ
海況 風弱く 波1.0→1.5m
大潮 満潮 11:00
透明度 8m
潜水時間 9:30〜13:30
最大水深 19.1m (16.0℃)
ヤス 3.25チョッキ銛
フィン ワープフィン
突果 イシダイ 70.0cm (自己記録)
ヒラメ 56.0cm (自己記録)




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