突行記 ’08

『第16回 日本海遠征』
〜 20代、ラストダイブ 〜
突行日 2008年 10月 8日

 サイモン氏と、ヌルハチ氏と秋の日本海へ。

“10月のベタ凪の日本海”

 この言葉だけで自然とテンションは急上昇し、行きの車内でも「今日の目標は〜!」なんて話で盛り上がっていた。Yahooの天気予報によれば、ベタ凪・快晴の海がオレ達を迎えてくれるはず…。

 ところが現実はそう甘くは無かった。いや、甘くないどころか、むしろヤバい感じ。波長の長い大きな波が次から次へと押し寄せ、沖磯にはかなりの高さの波飛沫が上がっている。波酔い必至の状況である事は、ウェットに着替える前から痛いほど感じ取ることができた。

「何て言うか…、玉砕覚悟じゃね。」

 そんな感じでエントリーを開始する。


■ 1本目 ポイント・OH

 まずは波に揺られながら、沖の瀬へと泳ぎ出ることに。波やウネリも気になったが、それと同じくらい気になったのがフロートの存在。最近日本海でのサメ(ヤバイ系)の話を多く聞くようになり、安全面を考慮した上で今回久しぶりにフロートを引っ張りながらの突行となったのだが、この日は波に加えて流れもキツく、かなり本気になってフィンを蹴らなければ前には進めないという程の悪条件。

 疲れた。。。

 気分悪い。。。
 
 疲れた。。。

 気分悪い。。。


 開始からおよそ10分で沖の瀬へ到着。透明度は5m程度。魚影はかなり薄め。

 まずは身体(サイナス)の調子を診るために、軽めの空潜り。

 うん、調子は悪くない。

 耳の抜けも普通。ただ、やはり潮流(フロート)のせいで、いつもよりは幾分潜り辛い。

 魚もほとんど見えなかったため、息を整えながらさらに沖の瀬へと移動してみたが、ハードな水面移動を余儀なくされるため、呼吸は思うように整わない。しかし、水面でチンタラしていても波に酔ってしまうため、適当な瀬の淵に目星を付け、この日2度目となるジャックナイフを試みる。

「…!?」

 ジャックナイフ直後、視界に中層を泳ぐ1匹の回遊魚が映った。

 サイズは50cm強。

 ヒラマサか?

 サイズは微妙だけど…、この海況。

 とりあえずキープでしょう。

 大きく隆起した岩肌がブラインドになり、すぐに視界から消えてしまったが、あのままの進路で泳ぎ続ければ、チャンスはあるかもしれない。消えてしまったことが、むしろ好都合になるはず。瀬の一段下がったフラットな部分に着底するなり、すぐにゴムを引きながらブラインドとなる岩肌の方へと向かい、射程圏内にヒラマサが現れるのを待った。

 数秒後…、いや、ほとんどその直後か…。

 目の前に現れたのは、先程とは別個体の80cmクラスのヒラマサ!!
 捕食モードではなく、遊泳モードで登場!

 オレは不覚にも想定外のサイズのヒラマサを目の当たりにし、一瞬身構えてしまった。。。

 しかし、ヒラマサもビクついたオレに気付くなり、何故かほんの一瞬動きを止める…。

 オレとヒラマサ、コンマ何秒かの硬直時間。

 でもオレ、頭の中はいろんな事を考えてたね。

 このシチュエーション、このタイミング、このサイズ。

 そして格好なんかではなく、このチャンスを確実にモノにしたいという背景。

 ド真ん中、直球勝負。

 今このタイミングでヤスを動かして頭を狙うより、ど真ん中にブチ込んだ方が絶対に捕獲成功率は高い。

 すでに射程圏内。ゴムはMAX引き。俗に言う、ロックオン状態。

 そのまま右手を放し、ヤスを開放した。


 「ズバッ…!!」


 ヤスは勢い良く飛び出し、ヒラマサの横っ腹に突き刺さる!

 ここまでは予定通り。当たって当然だから。

 問題は、ここから。
 回遊魚捕獲の醍醐味も、ここから。

 とりあえず素早くシャフトを掴み、ヒラマサの突っ込みに対応しようと構えてみるが、ヒラマサは………全く動かない。。。

 脊椎遮断のキルかな?とも思ったが、ここで油断して逃げられた事が今まで何度あったか。

 絶対油断しないって決めてたからね。今回は慎重に慎重を重ねるよ。

 見ればヒラマサのヒットした部分は、調度ハラミに当たる柔らかい部分。動かないとは言え、傷口は大きく、仮に少しでも走られたら身切れする可能性が高い。

 確実性を重視したいため、ヤスを引き抜いてチョッキを効かすのではなく、逆に押し込んで串刺しの状態を作った。ちょうどその瞬間からヒラマサはガタガタと震え始め、突然スイッチが入ったかのように大暴れし始める…!

 こうなればシャフトを軸に暴れるため、傷口は瞬く間に広がっていった。串刺し状態が解け次第、チョッキも効かずにすっぽ抜けるのは目に見えている。

 とにかくヤスを押し込みながら、最寄の岩肌へ向かって泳いだ。かなりの力でシャフトを振られそうになったが、一瞬の気の緩みがそのままバラしを意味するため、それを常に念頭に置き、全力でフィンを蹴った。

 数秒後、根のフラットな部分に着底完了。すぐにヤス先を岩肌に押し付けて固定し、串刺し状態のヒラマサを抱きかかえる作業に取り掛かる。そこからはスローモーション。どのくらいの時間水中でやり取りをしたのか全然解らない。とにかく息の続く限り、慎重に、そして力強くヒラマサの動きを押さえ込む。久しぶりに熱くなれた瞬間でもあった。

 ふぅ…。

 傷口はさらに大きく広がったが、ど真ん中に刺せていたため、身切れすることなくヒラマサを抱きかかえることに成功。喜びたい気持ちを押し殺しながら、両腕でしっかりとヒラマサを抱き、海面へとウィニングラン。鰓を切るまで、ストリンガーを掛けるまでは気を抜けないが、ここまで来ればもう大丈夫。

 ヒラマサ 86.0cm 5.2kg (自己記録更新)

20代最後の突行にて、思い出に残る1匹!

 魚の発見から取り込みまで冷静を装ってた分、締め終わってからは興奮したね。
 興奮した。
 興奮したけど、正直な感想は「やっとこのサイズが獲れたよ…」っていう感じ。

 青物はスキルよりも、タイミング。
 いろんな条件が重なると、誰でも獲れる。
 欲を言えばもっと早い段階で、このサイズを獲っておきたかった。

 さて、話は突行の続きに…。

 海面から顔を上げると、かなり沖に流されていた。若干気分は波酔いモード。透明度は悪く、平日だというのに釣り人は多く目に付いた。フロートにはすでに自己記録のヒラマサが…。まだ僅か2回しか潜行していないとは言え、早くもエキジットするための要素は揃っていた。なんとか余力で先程の瀬まで泳いで戻ってみたものの、やはり諸々の条件から満足な突行(潜行)はさせてもらえず。近くを通り掛かったヌルハチ氏にさり気なく(いやらしく)ヒラマサを自慢し、わずか30分足らずで岸を目指して泳ぎ始める。途中、いつもより若干遠回りしながら目ぼしい根を見て回ったが、捕獲対象魚の姿は一切見ることなく、結局そのままエキジットとなった。


2本目 ポイント・UR

 外海に面したポイントは高波のために潜れず、風裏となる湾内のポイントで一潜り。大型のイシダイ狙いでの突行だったが、確認できたイシダイは50cm以下の個体ばかり。釣り人が多く、無用なトラブルを避けるためにもアグレッシブに攻める事が出来なかったが、それを考慮してもこの日の魚影はかなり薄かったように思える。目ぼしい魚といえば、イサキの群れくらいかな。キジハタやクエ等も一切お目にかかることなく、ヤスを構えることすらなかった。もし1本目の突行でヒラマサが獲れていなかったら、今日という一日は本当に“ショボ過ぎる”一日になっていたことは、言うまでも無い。



場所 日本海某所
−突果写真−
天候 晴れ
海況 風弱く 波1.5m
大潮 満潮 11:00
透明度 5〜6m
潜水時間 9:30〜13:30
最大水深 17.4m (24.0℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン ワープフィン
突果 ヒラマサ 86.0cm (自己記録)




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