突行記 ’08

『第4回 日本海遠征』
〜 4度目の正直 〜
突行日 2008年 5月 21日

 例年同様、今年も同時期に日本海シーズンが幕を明けたのだが、今年は過去3回の日本海遠征において、未だにヤスを一度も撃っていないという少々嫌な流れの中にいる。特に前回(5月6日)の遠征においては、体調・海況・魚影共に結果を残せる条件が揃っていたにも関わらず、突果はもちろん突行内容においても決して納得できるものではなかった。冬場に休ませた身体が日本海の水深に慣れてないのか?勘が鈍っているのか?それとも全てはタイミング的な問題なのか?ここまで結果が残せない理由も解らず、イマイチ歯車の噛み合わない状況の中、今季4度目の日本海遠征を決行することに。

 この日の合同突行者は、はしけんさん、サイモンさん、ヌルハチ君の3名。昨年末に高知大学を卒業し、この春から広島で社会人生活をスタートさせたヌルハチ君とは去年の秋以来の合同突行になる。就職先の研修も無事に終了し、社会人として成長した姿を見せてくれることを期待していたのだが、道中の車内では相変わらず爆睡しているか下ネタ話をしているかのどちらかで、残念ながら成長の度合いは微塵も感じ取ることが出来なかった。

 そんな感じで車を走らせること3時間。早くも今年3度目の突行となる、外海に面したポイント・HNに到着した。Yahoo波予報が良い意味で外れ、海況はほぼベタ凪のグッドコンディション。平日ということもあってか沖磯には釣り人も居らず、周囲に気になる漁船も見当たらない。海に入る直前に地元漁師から「貝は捕ったらいけんどぉ〜!!」と声を掛けられたが、魚突きに関しては全くお咎め無し。

 午前8時30分。五月晴れの空の下、気持ち良くエントリーを開始する。


1本目 ポイント HN

 海の中はウネリも無く、若干春濁りが残っていたものの、透明度は8〜12mと視界は良好。潮も大きく動いており、小魚を含めた全体的な魚影もこの時期としてはまずまずの印象を受けた。また、身体のコンディションも非常に良く、耳の抜けもサイナスの通気性も問題無い。強いて言えば上唇の裏に出来ている米粒大の大きさの口内炎(体感では東京ドーム1.5個分の大きさ)が気になる程度。全ての条件が整うと、テンション的にも上がってくる。定期的に空潜りを繰り返しながら身体と肺を慣らし、潮流に逆らいながら遠浅なエリアを抜け出すように沖へ向かって泳ぎ出ること約10分。次第に海底までの水深も10mを超え、フラットな海底に沈み根や大きな岩が散在し始めたラインが、今日最初の漁場となった。

 まずは適当な沈み根に着底し、岩肌を指で擦りながらメインターゲットとなる大型のイシダイが現れるのを待つことに。

 ジョリジョリ…。ゴリゴリ…。ジョリジョリ…。ゴリゴリ…。

 反応は決して悪くなかった。潜って寄せればほぼ毎回のようにイシダイのシルエットを確認することが出来たのだが、顔を見せる個体は全て50cm以下のスルーサイズばかり。しばらくの間、少しずつポイントをスライドさせながら空潜りと寄せを繰り返してみたが、お目当ての銀ワサやクチグロの姿はいつになっても姿を現さなかった。また、いくら慎重に辺りを見渡してもマダイやクエといった“嬉しい誤算”にも出会うことは無く、ここで唯一アドレナリンが出た瞬間といえば、水深14〜15mのフラットな海底に張り付いてゴリ寄せをしている際、不意に背後から現れたヒラマサ70cm級×5匹の姿を視界に捉えた時くらいだろうか。ヒラマサとの距離は4〜5m程度。…とは言え、チャンスは無いに等しかった。出会ってから僅か数秒後、ヤスを構えてスタンバるオレにはほとんど興味を示さず、ヤツらは何事も無かったかのように青い海の向こうへ…。

 結局ここでは1時間弱で見切りをつけ、いつもはあまり踏み入らない岬側のエリアを攻めてみることに。

 このエリアはデータに乏しいため、開始からしばらくは海底環境や魚影を調査する目的で、中層付近を平行潜水しながら様子を伺って回った。しかし、これといって興味を惹くような沈み根も見当たらなければ、魚影面でも満足できそうな雰囲気は感じられない。ならば、と適当な根に着底して執拗に“寄せ”を試みてみるも、視界に入るのは手の平サイズのサンバソウ、コブダイ、メジナ、メバル、スズメダイ、タカノハダイ…。ふぅ〜。費やす労力と引き換えに、ヤスを構えることも無く時間だけが端々と過ぎて行く…。

 何の成果も上げられないまま、1本目のリミットも残り約30分。

 ここでの魚突きに見切りをつけ、最初にヒラマサに出会ったポイント付近に戻ろうと海面移動を始めた数分後、偶然にもたまたま通り掛かった沈み根(トップ5m、ボトム14m)の中層付近をフラフラと泳ぐ、1匹のイシダイのシルエットを薄っすらと確認する。海面からなのでサイズははっきりと解り辛いが、50cm後半はあると確信。ちょうど都合の良い方向に潮が流れていたため、イシダイから沈み根を挟んだ対面までフィンを動かさずに潮に流され、イシダイが視界から消えた所で静かに潜行を開始した。

 ジャックナイフから数秒で、イシダイとの待ち合わせに適した根の中腹部分に着底完了。ヤスゴムはすでにMAX引きでスタンバイ。おそらく真横(左方向)からゆっくりと顔を出すであろうイシダイに対し、“家政婦は見た”の市原悦子ばりにストーカー体勢で待ち構える。

…1秒…2秒…。

ん〜?

…。

来ねぇ…。

…!?

 ふと何気なく視線を海底付近に下げると、イシダイはオレが思っていたよりも深い水深を一定の速度で泳いでいた!しかも、低速ではあるが、すでにイシダイはオレの待つ根の下方(水深差4〜5m)を通過しようとしている!
 考えている時間は無かった。すぐに身を屈め、左腕1本で根の壁面を押し出して軽めのワンダッシュ&マイナス浮力で静かに射程圏内へ。ここまで距離を詰めながらも、オレに気付くことなく悠々と泳いでいる後ろ姿が少々哀れにも感じたが、そう思うとほぼ同時に、ヤスはイシダイの真上から頚部の肉厚な部分に深々と突き刺さっていた!
クチグロ 61.0cm!!
 脊椎破砕のキルショットを確信したほど自分の中では納得の一撃だったが、一瞬の硬直時間を置いて、イシダイは激しく海底への突っ込みをみせる!しかし、チョッキの刺さりはほぼ完璧。ケプラーのラインも新しいものに交換したばかりで、バラしそうな気配は一切無し。ゴムのテンションを利用しながら強引に海面へと浮上し、落ち着いてラインを手繰り寄せる。あとはイシダイを抱きかかえ、鰓元に指ストリンガーで勝負あり。

 久々手にするイシダイの重量感。すぐに手尺で60cmクラスであることを確認し、片手で小さくガッツポーズ。自己記録には及ばないイシダイではあったが、プレ開幕から続く負のスパイラルの中で獲れたという面では、とても価値のある1匹だった。

 丁寧にイシダイをスカリに通し、残りの約30分は気ままな突行に…。すでに一仕事を終えているため、自分へのプレッシャーや、過度な期待等は一切無い。結局最後までイシダイ以外の有用魚種に出会うことは無かったが、とても解放的で、心地良いひと時を送ることが出来た。


2本目 ポイント OH

 去年までのデータを参考にすれば、この時期・この水温ならば、キジハタが現れても不思議ではない。いや、むしろキジハタに出会わない方がおかしいでしょ?…ということで、2本目のポイント・OHではターゲットをキジハタに絞り、実績のある根回りを重点的に調べていくことに。


 まずは自分のための魚突きからは少し離れ、日本海に潜り慣れしていないサイモンさんと共に潮通しの良い沖磯(沈み根)まで移動し、潜り方や寄せ方、魚を待つ際のポイント等を説明・実演しながら、周囲の状況を探っていった。しかし、残念ながら魚影は薄く、加えて海の中では伝えたい事や考えを上手く表現することが出来ない。ここでの透明度もそこそこあったため、潜行→魚との駆け引き→取り込み という一通りの手順を実際にお見せしたかったのだが、現実的にそれは難しく、人に魚突きを教えることの難しさを改めて実感。現場での自分の経験こそが全てであり、ここでサイモンさんに対してどれだけの事を伝えられたのかは解らないが、少なからず何らかの刺激を与えられたのでは?と半ば強引に自分を納得させ、サイモンさんへのレクチャーは30分程度で終了。

 ここから先の2時間は別行動をとり、オレはキジハタ探しの旅へ出ることに…。

 去年我が家の食卓に一大ブームを巻き起こしたキジハタ。数居る日本海の美味しい捕獲対象魚の中でも、オレにとっては得意中の得意分野である。ところが「普通に探せば獲れるっしょ?」という軽い気持ちで突行を再開させてみたものの、最初の1時間はまったく良いところが無かった。過去の実績を基に、キジハタを見た沈み根、キジハタを獲った岩の割れ目、キジハタをスルーした磯周りなど、目ぼしいポイントを重点的に調べて回ったが、サイズに関係なく、ハタ科のシルエットを1匹として拝むことが出来ない。水温的にもまだ海藻が溶けきっておらず、生い茂ったワカメ等の海藻類が同系色のキジハタをカモフラージュさせるため、捜索が難航するだろうというのは承知の上だった。しかし、去年までに培ったキジハタ捕獲マニュアルをもってすれば、キジハタの1匹や2匹くらい…というのが心の内。岩穴や岩下を一つ一つ覗いて回るのではなく、空潜りと寄せを繰り返し、視野を広く持ちながらキジハタの好みそうな海底環境への巡回に時間を費やしてみたのだが…。

 不覚にもキジハタに出会えぬまま、開始から2時間弱で捜索を断念する。

 以降は再びイシダイ狙いに時間を費やした。基本的にはイシダイとキジハタの探し方(寄せ方)にそう大差は無いが、気持ちの上ではキジハタは完全に諦め、視線は自然と中層を泳ぐ魚のシルエットに照準を合わせている。

 そんな最中、潮通しの良いとある大きな沈み磯(トップ5m、ボトム20m弱)の中腹にて、ゴリ寄せもせずにボーッと海中を眺めていると、どこからともなく55cm級のイシダイ(銀ワサ)が単体で現れ、労せずして射程圏内に入ってきた。体勢の悪さからファーストチャンスは逃してしまったが、その後もイシダイは逃げることなくオレの3〜4m目前(やや下方)で、ほぼ無警戒モードで戯れている。すぐに体勢を立て直し、ヤス先をイシダイの方へ…。するとイシダイはほんの少しだけ警戒してか、今度は超低速で逃走を始めた。ヤスを撃てばいつでも確実にヒットさせる事が出来る間合いの中での低速逃走。「もっと警戒しろよ!」と突っ込みたくなるような雰囲気だった。このまま強引にヤスを撃ち込んで捕獲するのは容易なことだったが、泳ぐイシダイに対して斜め後ろから突かざるを得ないため、身を豪快に傷付けてしまう可能性が非常に高い。
『背後から強引に撃ち込むか?頭を撃てるタイミングを待つか?』
 確実な突果と自分のポリシー、どちらを優先させるべきなのか。その答えが出る前に、イシダイはゆっくりと泳ぎながら、すぐ傍にあるポッカリと大きく口を開けた岩下へと入って行った。

 ここで一旦浮上し、息を整えて再潜行。

 ヤスゴムはMAX引きでスタンバイ。ゆっくりと岩下のスペースを覗き込み、それと同時にヤス先も岩下へと差し入れる。岩下はかなり広いスペースが確保されており、畳一畳分の広さに高さは50cm程度。さらに奥からは光も射し込み、それなりに視界は保たれていた。そしてそのスペースの奥には期待通り、先ほどの銀ワサがウロウロと…。ヤスを向ければもちろん射程圏内。しかし、相変わらず後ろを向いたままの状態で、なかなか思ったような角度に頭を振ってくれない。岩下に流れる、もどかしい数秒間。ヤス先はイシダイへと向けたまま、集中を切らさず、今か今かとその時が来るのを待つ。…と、ここでそのイシダイの側方より、大きな胸鰭をゆっくりと動かしながら熱い視線を送ってくる1匹の根魚を発見…!!
「おぉっ!キジハタ!!しかも結構良いサイズ!!」
 キジハタは岩下の奥の方(イシダイよりも少し奥)から「どちら様ですか?」とばかりに顔を出し、ジワリジワリと寄って来る。それと入れ替わるように、イシダイはゆっくりと岩下の奥の方へ…。選択の余地無く、ヤス先はキジハタの頭部へとロックオン!あとはキジハタが横を向くのを待つだけの必勝パターン…、というところで、オレの脳裏に邪念が過った。。。
『ここでキジハタを普通に獲ったら…、やっぱ銀ワサには逃げられるよなぁ。キジハタは確実に欲しいけど。。。でも何だかそれって、勿体無くねぇ?』

…。

やりますか。2枚貫き。上手く刺されば、何とかなるだろ。

 2匹の魚を警戒させないため、視線以外は一切動かさず、キジハタの頭部へヤス先を向けたまま、後方に居るイシダイが良い感じで重なるのを待った。中型種の根魚とはいえ、頭部の硬い部分へ刺さると貫通しない可能性もあるため、キルショット狙いでは無く、鰓付近を撃ち貫く感じで…。そしてついに、キジハタが横を向きかけるタイミングに合わせ、ヤスとキジハタの延長線上に銀色のシルエットが重なった!その瞬間…
ズバッ…!!!
 ヤスは至近距離からキジハタの左鰓下部→頭部にクリーンヒット!それと同時にシャフトを握り、岩下のスペースから手早くヤスを引き抜いた!巻き上がる砂煙の中、暴れながら出てきたのは、良型のキジハタ…1匹だけ…。残念ながらチョッキはキジハタの頭の中で止まっており、イシダイの所までは辿り着かなかった様子。ヤスの入射角度の問題か?それともシャフトを掴むのが早過ぎたのか?いずれにしても無謀なチャレンジではあったが、久しく味わっていないスリルと興奮を覚えた瞬間でもあった。今季初めて手にしたキジハタは、納得の48cm。滑らかな魚体、大きな胸鰭、小豆色の斑点、そして独特の顔付き。いつもこの魚をこの時期に獲ったら自然に思うよ。「また今年も海が始まったな〜」って。

 満足な突果が得られたため、清々しい気分でエキジットポイントへとフィンを漕ぐ。途中にふらりと立ち寄った沈み根にて、その壁面を物静かに駆け下りていく1匹のハタ科のシルエットを確認。辺りは薄暗く、体全体が茶色っぽい印象を受けたため、最初はクエだと思ったが、その泳ぎ方・挙動からすぐにキジハタであることに気付く。息止めに余裕があったため、そのままヤスゴムを引きながらキジハタの追跡を開始。
逃げる、キジハタ。
追う、み〜ちん。
振り向く、キジハタ。
突き刺す、み〜ちん。
良型のキジハタを2連発!
 振り向きざまに頭を撃ち抜かれたキジハタは、抵抗も虚しくあっさりとストリンガーへ。キジハタ、ジャスト50cm。いかにも内臓脂肪を溜め込んでそうな、見事な体型。もし今日、これ以上のキジハタと遭遇したとしても、キープorスルーで悩むだけのため、次回以降の突行のためにもここから先は一切空潜りはせず、海面移動のみでエキジットとしました。

 4度目の正直でやっと納得の突果・突行内容になった今回の日本海遠征。自分の中でスランプと呼べる程の重圧や、焦り等は全く無かったが、本音を言えば結果を出せて“ほっ”としたかな。でも、日本海の魚突きはまだまだこんなもんじゃない。自分の理想ももっともっと上にある。最近、生意気にもいろんな人に対して魚突きを語るようになり、それと同時に客観的に自分を見ることで「オレもまだまだ上を目指さなきゃ!」って本気で思うようになってきた。
 海で楽しんでれば、遅かれ早かれ結果は必ず付いてくる。今回は獲れたが、また次回はボウズになるかもしれない。でも、それで良いと思う。結果は毎回でなくても良い。ただ、内容だけは毎回拘っていきたいと思う、今日この頃です。


場所 日本海某所
−突果写真−
天候 晴れ
海況 弱風 波1.5m
大潮 満潮 12:00
透明度 8〜12m
潜水時間 8:30〜14:30
最大水深 17.5m (17.0℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン エスカペッツ・改
突果 イシダイ 61.0cm
キジハタ 50.0cm 48.0cm

本日の食卓
肝の湯通しと胃袋の塩胡椒炒め カマの塩焼き 皮付きのタタキ 吸い物
久々のキジハタは、文句無しに美味かった!脂の乗りも良く、旨いし、甘い。これ以上のコメントは必要ないだろう。
キジハタの不思議
【機能を失った卵巣】
去年から目立ち始めたんだけど、ある一定のサイズを超えると卵巣の内部が徐々に線維化(固形化)していき、卵巣としての生殖機能を完全に失っている個体が意外と多い。さらに大型の個体になると、アルミホイルを丸めて固めたようなメタリック調な卵巣になる。そしてそれらの個体の多くに言えることは、生殖活動に余分な体力を注がない分、良く肥っており、身体全体に脂が乗っているため季節を問わず非常に美味しい。




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