突行記 ’07

『第19回 日本海遠征』
〜 ベストシーズン到来 〜
突行日 2007年 10月 28日

 海は若干荒れ気味の予報だったが、この時期の日本海を少しくらいのバッドコンディションで諦めきれるはずも無く、早朝より車を走らせ、一路日本海は島根へと向かった。
 今日の合同突行者はボラ男師匠。師匠とは今夏の日本海遠征を最後に当分の間ご一緒できない予定だったが、諸事情により渡航が先延ばしとなったため、急遽秋の日本海でもご一緒出来る運びとなった。


■1本目 ポイントOH

 海はまずまずのコンディション。磯際や沖の瀬周りには波が強く打ち寄せ、とても魚突きができる状況ではなかったが、少し沖に出れば若干のウネリはあるものの、特に危険を感じるほどのものでもなかった。

 9時00分、準備も早々にエントリーを開始する。

 まずは釣り人を避けるように沖へと泳ぎ出て、回遊魚の実績の高い“沖磯裏の瀬”を目指した。
 透明度は6〜7m程度。魚影はまずまず。しかし確認できる捕獲対象魚はイシダイばかりで、キジハタも小さめ。メインターゲットの回遊魚は極稀に70cmクラスのブリorヒラマサが2、3匹の少数編成で現れる程度。寄って来る気配もなく、視界ギリギリのラインで薄っすらとそのシルエットを確認できるのみ。
 “ヒゲダイの根”には今日も60cm級の老成魚が1匹、岩壁に張り付くようにホバリングをしていた。相変わらず動きが鈍いというか…ほとんど動かなかったが、迫力は十分。あとは80cm級のスズキが数本と中型のイシダイの群れ。50cm弱のキジハタを1匹見ることが出来たが、微妙に警戒心が強く、岩陰に入り込んだまま出てこなかった。

 青物にもハタにも縁が無いため、いつもの沈み根へイシダイを獲りに向かったが、今日は何故か蛻の殻。前回の突行まではかなりの高確率で大型の群れが出迎えてくれていたのだが…、この2週間でヤツらは一体何処へ消えてしまったのだろうか?開始から60cmオーバーの縛りでイシダイを探していたが、あまりにもチャンスが来ないので、レギュレーションを50cmオーバーに下方修正し、本気モードでのイシダイ狙いを開始する。

 …が、こういう縁が無い日って、とことん獲れなかったりするんですよね。

 その後も全く成果が現れぬまま、突行開始から2時間30分が経過…。

 エキジット予定時間まで残り30分。

 何となく1本目のボウズが脳裏を過ぎり始めた頃、水深14〜5mのフラットな海底にいくつかの沈み岩が点々とするポイントにて、数匹のイシダイのシルエットを確認する。サイズは最大でも50cm前後。適当な沈み岩に身を隠し、寄せるだけ寄せた後に突くべきかどうかを迷っていると、数m離れた隣の岩下付近に揺らめく1匹の良型のキジハタを確認する。これで迷いは無くなった。少し遠回りをしながらも点在する沈み岩を死角に利用して確実に距離を詰め、正面やや上方よりロックオン完了。静かに上からヤスを向けられたキジハタは、セオリー通りに身体を捻り、ゆっくりと側頭部をこちらに向けてきた。あとは撃つべき所に撃ち込むだけ。何の技術も必要ない。
 シャフトまで深々と刺さったキジハタをガッチリと掴んだ後、直ぐに浮上せず海底付近にて周囲を見渡してみると、3〜4m離れた別の沈み岩の陰からこちらの様子を伺うようにホバリングしている同サイズのキジハタを確認することが出来た。

「ん〜、良い流れだねぇ(ニヤリ)!」

 そう思いながら気付かなかった振りをして2匹目のキジハタの死角へと回り、少し離れた場所から浮上を選択しようとした…


 …その時…


 ゴゴッ…

 
 海の中で何かが響いた。

 
 
 ゴゴッ…ゴゴゴッ…



 次の瞬間、オレの視界に飛び込んできたのはロケットミサイルのように飛び交うヒラマサの群れ。平均サイズは60cm後半。その数は瞬く間に増えて行き、最終的には70〜80匹の群れを作っていた。ヒラマサは狂ったようにすぐ近くの根回りを乱舞し、警戒する素振りも見せず射程圏内にも容赦なく足を踏み入れて来る!絶好の捕獲チャンス!しかし、オレのヤスにはキジハタが串刺し状態になったままで、目の前のヒラマサに対してヤスを撃てる状況では無い。
 考えている暇は無かった。いや、考える余地が無かった。ソッコーで海面へと浮上した後、呼吸を整えながらキジハタの鰓を強引に引き千切る。そして焦りながらも確実にスカリへと魚を通し、チョッキのセットも完了。急いでヤスを構えてヒラマサの待つ水深へと向かったが…すでに回遊魚のシルエットは何処にも見当たらない。

「遅かったか・・・。」

 …と、落胆しかけた次の瞬間!


 ゴゴッ…


 き、来たぁぁぁぁあああ!!!!!


 ヒラマサ軍団、再び登場!

 しかも今回の群れは視界に現れるなり、オレを中心にしてグルグルと周回を始めた。周回する半径は射程ギリギリのラインだったが、ワンダッシュして撃てばどの個体にも当たりそうな雰囲気。サイズ的に多少のバラ付きは見られたが、とにかくヤス先を一点に集中して狙いを定め、タイミング良く射程圏内を通り掛かった個体目掛けて、思いっきりヤスを撃ちこんだ!

 ドスッ!

 ビュビュビュビュ〜ン!!!

「美味なる魚達」

 何て言うか…病み付きになるよね。この感覚。
 撃たれたヒラマサはヒットした直後から真横に突っ走り、ゴムを握ってテンションを掛けると中型の回遊魚ならではの程好い引きから、何とも言えない爽快感と充実感を味わう事が出来る。その中には身切れを心配するリスク等ももちろん含まれるわけだが、チョッキがしっかりと効いていることが確認できれば、あとはゴムを引っ張りながら強引に水面へと向かい、いつもと同じ取り込み動作に入れば良い。ガッチリと喉元を掴み、両鰓を引き抜く…。他魚種よりも明らかに多く溢れ出す赤い煙幕と、失血による痙攣。少々残酷な光景ではあるが、これこそが回遊魚捕獲の証。決して悪い気分ではない。

 ちなみにこの日は、この感覚を2度味わうことができた。
 2匹目のヒラマサは、1匹目を取り込んでから僅か数分後。同じ沈み根、同じ深度に先程とほぼ同じ規模の群れでやって来た。1匹目同様、ドスッ!と撃ち込めば、次の瞬間からビュビュビュビュビュ〜ン!とトップスピードで走り出す。サイズがもっと大きくなれば、こんな悠長な事は言っていられないのだろうが、やはりこのくらいの青物は走ってナンボ。寄せて獲るイシダイや、寄って獲るキジハタとはまた違う楽しさがそこにはある。

 その後も暫く同じ根に張り込みヒラマサの再来を待っていたが、それっきり姿を見せなくなったため、待たせておいたキジハタを忘れずに捕獲して1本目のタイムリミットを迎えました。


■2本目 ポイント・OH

 師匠は波酔いでほぼグロッキーな状態。1本目は休憩を挟みながら潜っていたらしいが、突行前から 目標に掲げていた“イシダイの捕獲”に関しては、その姿すらまともに見れていないらしい。「波の穏やかな湾内へポイント移動」という案も出たが、釣り人の多さからそれも断念。

 結局、1本目と同じポイントで潜ることになったのだが…。

 軽く昼食を摂り、12時前より2本目のエントリーを開始する。

 師匠がイシダイをどうしても食べたそうだったので、1本目の後半に引き続いてイシダイ狙いの突行を行った。しかし午後に入ってからは魚影が極端に薄くなり、まともなサイズのイシダイをなかなか見ることが出来ない。イシダイ以外の捕獲対象魚にもほとんどお目に掛かれず、回遊魚は遠目で僅か1回見れた程度。実績のある根周りで40cm強のキジハタを1匹追加したが、後が全く続かない。
 開始から1時間少々が経過したところで陸に目をやると、なんと師匠は既に着替えを済ませ、エントリー地点でオレの帰りを待っているではないか…!

 や、やばい。

 師匠は波酔いに耐えれずソッコーでエキジットしたんだ。

 …ってことは、師匠は絶対ボウズだ…。

 ポイントをチョイスしたオレに責任が…。

 そもそも波があると解っていて日本海へ誘ったのがマズかったのか…。

「この時期の日本海、イシダイなら余裕で獲れますって!」なんて車内で豪語しちゃったし。

 師匠のフィンは短いし、ヤスも180cmの3又だしな。。。

 長い道中。悪い海況。そしてボウズ。

 師匠にとっては楽しくない一日だったのかなぁ〜。

 オレの思考回路は完全にマイナスモード。それでも「せめて師匠へのお土産にイシダイを…」との思いから、師匠が待っていると解っていながらも、もう一度沖に向かって泳ぎ出る。

 10分近くが経過したところで、水深13〜15mの海底に、高さ4〜5m程度のコッペパンのような形をした小さな根を発見する。

 潜って少し待ってみると、40cm前後のイシダイが数匹寄って来た。

「サイズがどうとか言ってられないし…これで良しとするか…。」

 とヤスを構えると、その奥から一回り大きなイシダイが登場。

 寄ってくるわけでもなく、一定の距離を保ったまま、右へ左へ行ったり来たり。


 静かにゴリ寄せを開始…。

 待つ。

 ゴリ寄せ。

 待つ。

 必死でゴリ寄せ。

 待つ。

 …。

 祈る。

 ゴリ寄せ。。。


 射程圏内♪

 いやー、良かった。マジでほっとしました。

 この時期のイシダイにこんなに苦戦するなんて思いもよらなかったが、何よりこれで「最悪な事態」は免れられた。イシダイのサイズは55.0cm。師匠の疲れきった身体と心をこの魚1匹で癒せるかどうかは解らないが、とりあえず…エキジット…。

 すると…どうだ。

 師匠がオレのイシダイを見て一言。

「ワシの方が少しだけ大きいな!」

「えっ…!??」

「師匠のミラクルイシダイ 63cm!」

 思わず耳を疑った。しかし冗談かと思いながら車まで戻り、クーラーを除いてみると中には本当にデカいイシダイが横たわっている。サイズは63.0cm。厳つい顔付き、迫り出したオデコ。文句の無いクチグロだった。聞けば波酔いする前に獲れたらしく、コイツを獲って即撤収したとのこと。穴撃ちで突いたとのことだが、ヤスのポテンシャルと師匠の体調を考えれば、これは快挙というか…奇跡に等しい。オレも興奮して嬉しくなったが、師匠はもっと興奮して喜んでいた。帰りの車内でも、いつまで経っても子供のようにニヤニヤと満足そうな笑みを浮かべる50歳過ぎの“おじさん”。会話の途中で口にした「30年を超える魚突き人生の中で、一番嬉しかったかもしれんね」という師匠の一言。その現場に立ち会えたことが、また嬉しくもあった。

 行って良かった日本海。突行中の心配なんて、全く必要性の無いものでしたね。楽しく、そして印象的な秋の海。終わってみれば、二人にとって最高の日本海遠征だったような気がします。



場所 日本海某所
−突果写真−
天候 晴れ
海況 弱風 波1.5m
中潮 満潮 14:30
透明度 6〜7m
潜水時間 9:00〜14:45
最大水深 ダイビングコンピューター、故障中
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン エスカペ
突果 ヒラマサ 68.0cm 60.0cm
キジハタ 47.5cm 47.0cm 42.0cm
イシダイ 55.0cm




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