突行記 ’07

『第2回 日本海遠征』
〜キジハタ祭り〜
突行日 2007年 5月16日

 2週間前の日本海遠征にて海況に難がありながらもイシダイ・キジハタと確認できたため、今回の遠征では確実にいずれかの魚を捕らえ、突行内容だけではなく漁獲面にも拘っていきたいところ。広島市内某所にて水君と合流し、早朝の山道をかっ飛ばすこと2時間。目的地となるベタ凪のポイント・SPには8時過ぎの到着となった。

― 1本目 ポイント・SP ―

 準備も早々に、9時前よりエントリーを開始する。
 海は春濁りの真っ最中なのか、全体的に白濁しており、透明度は平均して5m程度。沈み根の位置は海面からではまったく分からない。魚を探す上では少々厳しいコンディションだった。

 とりあえず向かったのは最も手前にある通称“イシダイの根城”。このポイントでは最も潮当たりがよく、この地域にしては珍しく良型のイシダイが集うポイントとして実績が高い。…が、今日はメーター級のコブダイと、サンバソウが10匹程度居るだけで、捕獲対象となる魚には会う事が出来ず。何度か空潜りを繰り返したものの、何の成果も得られそうにないため、ポイント移動を試みることに。

 続いて向かったのは通称“キジハタの割れ目”。ここは地形的に魚を突き難い(ヤスを扱い辛い)ポイントだが、縦方向に大きく開いた十字の割れ目にキジハタ等の良い根魚を見ることが多く、個人的にはかなりお気に入りのポイント。水深も10m少々と比較的浅め。息を整え、期待値とヤスゴムをMAXの状態で潜行を開始し、慎重な動きで割れ目を覗いてみる…。目的の十字の割れ目には何も居なかったが、ふと横に視線を向けると、すぐ隣にあるオーバーハングになった大きな岩陰で、60cmクラスのイシダイと想定外の顔合わせ。この辺りではあまり見ることの無いサイズ。すでにヤスゴムはMAX引きでスタンバっていたため、あとは狙いを定めるのみだった。ヤスを向けられたイシダイは何度か岩下のスペースで小刻みに右往左往し、挙動不審な動きを見せながらもオーバーハングの奥にある横穴に逃げ込もうと、体勢を変えて方向転換…。「これが最初で最後のチャンス!」直感的にそう思い、半ば強引にヤスを撃ち込んだ!フルパワーで放たれたヤスは、斜め後ろからではあったが胴回りの太い部分を深々と貫通する!!撃たれたイシダイは硬直時間0秒で猛然と横穴に向かって突っ込みをみせた!大きく撓る3.2mのカーボンシャフト!岩肌に阻まれた狭いエリアでのやり取りに、かなり窮屈な思いをしながらも2度3度と鋭い突っ込みを交わし、何とかイシダイを岩に囲まれた厄介な根回りから抜き出すことに成功!すぐにラインを手繰り寄せ、手元へとイシダイを引き寄せる!そして暴れるイシダイをしっかりと抱きかかえ、海面へとウイニングラン!

 水面へ上がり一呼吸。それから直ぐにストリンガーに取り込もうと、一旦右手を魚から離して鰓に手を持っていこうとした時…何か金属的なものが手袋に引っ掛かった…。ん?何だこれは?「ハ、ハワイアンフック…(汗)!?」と、気付くと同時にイシダイは再び死力を尽くして大暴れ。抱きかかえていたオレの左手からスルリと抜け出るや、イシダイはチョッキラインをぶら下げたまま、白濁とした海の彼方へ…。

 それ以降、イシダイの姿は2度と見ることが無かったのは言うまでも無い。

 手元に残ったのは「へ」の字状に伸びて広がったハワイアンフック…。あまり考え難い出来事だが、おそらく最初の突っ込みを何度か交わしている間に、岩肌に当たったフックが横方向に90度回転し、力のかかる支点が短軸側にズレてしまったのだろう…。いまさら原因を解明したところで、全ては後の祭りなのだが…。勝利を目前に何とも後味の悪いバラし方をしてしまった。。。

 その後は確実に無駄死にするであろうイシダイの影を追ってみるも、やはり奇跡の再会は果たすことが出来ず。またその他に良い魚も見当たらない。1時間ほど他の沈み根や磯周りを見て周ったが、そこでも突きたくなるような魚は一切居らず。少々未練がましいが、イシダイをバラした沈み根付近へともう一度引き返し、イシダイが海底付近でくたばっていないかを確認してから帰ることに…。

 目的の根に到着後、ダメ元な気分でイシダイを突いたオーバーハングまで潜ってみるも、やはりその姿は無し。…が、ふと隣の“キジハタの割れ目”に目をやると…おっ、居ました!!キジハタ!!推定サイズは40cm強!上から覗き込む体勢のオレに対し、割れ目の中からこちらを見上げるようにホバリングしているキジハタ。ゆっくりと慎重にヤスを向け、額の真正面からロックオン完了!そのまま撃っても確実に当たる間合いだが、刺さり具合のことを考えると横を向くまでは我慢したいところ。「横を向け!ゆっくりと向いてくれ!」そう願いながら、微動だにせずにロックオンを続けること実時間にして軽く10秒以上。息苦しさの限界を前に掟破りのクイックターンに見舞われ、キジハタは割れ目の中に開いた扁平な横穴に姿を晦ませた

 ここから始まったキジハタとオレの根競べ。
 海面から沈み根が確認できない状況に、東向きの緩やかな潮の流れ。低い透明度に流れが加わると、どうしても無駄な空潜りが多くなってしまい、十分な余力を残してキジハタと向かい合う事が出来ない。また、ストレートに割れ目まで到達でき、運良くキジハタの姿を捉えれたとしても、そんな時に限ってタカノハダイやサンバソウが憎いほど絶妙なブラインドとなり、なかなか満足な体勢からヤスを撃てるチャンスを与えてくれない。こういう一つの穴に出入りを繰り返すキジハタに対しては、ファーストチャンスを逃す事にそれほど大きな意味は無いため、ただひたすら横向きで確実に撃ち込めるタイミングだけを計ればよかった。しかし、ここでの魚突きはやはり地形的に魚有利の状況だったようだ。

 キジハタとの出会いから約1時間。ようやく確実に当たるチャンスをモノにしたのは良いが、ヒットさせた直後にヤスを割れ目からスムーズに引き抜くことが出来ず、撃たれたキジハタはラインを引き伸ばして割れ目の中にある横穴に…!そしてそのまま狭い岩肌にしっかりとエラを張り、「出されてなるものか!」と、必死の抵抗を見せる。

 刺さり場所があまり良くないように思えたため、強引にヤスを引き抜くことが出来ず、一先ずヤスを放棄して海面へと向かった。ここからさらに30分近いやり取りが。。。押してみたり、引いてみたり、時にはヤスを見失いながら…。「もうだめかな?」最後はバラしを覚悟でラインを直接掴み、ゆっくりと、そして強引に引き出してみた。
写真上では奇麗ですが・・・

「ゴリゴリ…ガリガリ…」

 手に伝わる鈍い感覚と共に、運良く穴から出て来たキジハタ、41cm!
 可哀想なまでにボロボロな姿で…。

 今季初のキジハタ。そして、今まで獲ったキジハタの中でも1,2を争うほど手を焼かされた1匹。とりあえず最悪な結果だけは逃れた事に胸を撫で下ろし、1本目の突行を終了とした。


― 2本目 ポイントSP ―

 本日のノルマは確保出来たため、かなり気軽に臨めた2本目の突行。水中カメラを持って入る余裕もあったが、この春濁りの前では満足な写真を得られることは出来ず。1本目同様のルートを辿りながらイシダイやキジハタのシルエットを追ってみたが、何事もなく時間だけが経過。最初のビッグチャンスは開始からおよそ1時間が経過しようとしたところ…。

 「もう少し透明度が良ければ、見えない魚も見えてくるんだろうけどなぁ…」と思いながら砂地ベースの海底付近を水平移動していると、砂地と沈み根の際を流れるように泳ぎ去る1匹の魚を確認!若干遠めではあったが、そのシルエットと泳ぎ方で、直ぐにキジハタと確信することができた。キジハタは砂地の上を比較的速いスピードで泳ぎ、突き当りとなった根の切れ込み付近に姿を隠す。「また長いバトルになりそうな雰囲気だ…。」そう思いながら一旦浮上し、息を整えて再潜行。すると…どうしたことか。キジハタは根の切れ込みからリードを大きく取り、砂地の上で暢気にホバリングしているではないか!「これはチャンス!!」それを確認するや、キジハタから出来るだけ死角となる角度から、海底スレスレを泳いで近付き、いとも簡単に射程圏内へ!そして流れるようにロックオン…。

自己記録に迫る51.5cm!

 キジハタが暴れ始めたのはそれから僅か数秒後。少々刺さり所がダサいのを除けば、セオリー通りに捕獲できた完璧な流れ。取り込みにも焦ること無く、スカリに通ったキジハタは51.5cmのグッドサイズだった。

 となると残るは今季初のイシダイ…と、いきたいところだったが、2本目以降は40cmオーバーの個体は1匹たりとも見ることは出来ず。その後は浅場で水中撮影を楽しんでいたが、時間の経過と共に次第に波が高くなってきたため、仕方なくエキジット。陸には
●●県警がスタンバっていたが、とくに事情聴取をされるわけでもなく、2匹のキジハタを見せるなり妙に納得して去って行った。

 さーてと。
 今夜はキジハタと共に至福の一時が過ごせそうだな。

 肴を食べながら酒を飲む。
 魚を思いながら酒を飲む。

 自己満足。自己満足。それで良い。魚突きは…素晴らしい。
 あー、魚突きって素晴らしい!!!



場所 日本海某所
今日の突果
天候 曇り のち 雨
海況 風速5m 波1.0m
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透明度 4〜5m
潜水時間 8:45〜15:30
最大水深 13.3m(17.6℃)
ヤス 3.2mチョッキ銛
フィン エスカペ
突果 キジハタ 51.5cm 41.0cm
本日の食卓
薄造りin馬路のポン酢 タタキ 胃袋と肝の煮付け カマの塩焼き
 さすがキジハタ…。旬では無いにも関わらず、どんな食べ方をしても満足させられる上質な白身は“流石”としか言いようがない。今回は毒魚さんに頂いた高知が誇る最強のポン酢・馬路ポンで頂いたが、このゆずの風味がキジハタのあっさりとした肉質に良く合って…最高でした。皮付きのタタキ、カマの塩焼きも美味かった〜!胃袋と肝の煮付けは日本酒のお供に…。ん〜、しあわせ。




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